韓国社会が大揺れ、「接待文化」と決別できるか 劇薬「金英蘭法」が突き付ける究極の選択

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男性弁護士の別の愛人の暴露に端を発したこの事件は、当時、検察内で特別チームが組まれ捜査されたが、金品の授受は確認されても職務との関連性を立証できないとされ、この女性検事は無罪放免となった。これに世論が激怒。こうした背景から公職者が職務に関連性がなくとも金品を授受した場合は処罰しようという気運が高まり、金英蘭法が本格的に立法に向けて動き出した。

韓国検察の腐敗はたびたび俎上に載せられてきた。知り合いの建設会社から事件もみ消しを頼まれたソウル地検検事が、高級セダン「グレンジャー」を受け取った「グレンジャー検事事件」(2008年)、最近では日韓でPCのオンラインゲームやモバイルゲーム事業を展開する「ネクソン」創業者から非上場株を不当に買い取り、およそ十数億円相当の多額の利益を稼いだとして収賄容疑で逮捕された釜山地検の現役検事事件があり、これは青瓦台(大統領府)の民情首席秘書官の収賄疑惑に飛び火する大スキャンダルに発展している。

ちなみに、「ベンツ女性検事事件」は最高裁まで持ち込まれたが、2015年3月、無罪判決が下りた。その理由は、「(ベンツなどは)事件の請託対価ではなく、愛の証」と笑うに笑えないやるせないものだった。

父兄が『寸志』封筒を置いていく

規制対象にマスコミや私立学校が追加されたのは、「『寸志』という悪しき慣習があるためだろう」と言うのはある50代半ばの会社員だ。この会社員は教育実習の際、その実態に失望して道を転向したという。

「80年代、大学の教育実習で江南(富裕層が多く住むソウルの住宅街)の中学校に行った時のこと。教師がにやにやしながら、『ここでは給料以外に黙っていても200万ウォン稼げるんだ』なんて言う。その頃はサムスンの給料が35万ウォンくらいだった時代。驚いてどうしてかと聞くと、高校進学に重要な内申書の点数を高くしてほしいと父兄が『寸志』を持ってやってくるからだという。教職員室に父兄が来ると、教師は知らんふりしながらすぅーっと引き出しを開ける。すると、父兄がお金の入った『寸志』封筒をおいていくのさ」

韓国の全国紙元記者の60代の男性からもこんな話を聞いた。

次ページ施行は9月28日
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