韓国社会が大揺れ、「接待文化」と決別できるか 劇薬「金英蘭法」が突き付ける究極の選択

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「寸志というのは記者にもあった。ある官庁詰めの時、寸志を渡されたことがあってね。恥ずかしいが、そのカネで同僚と一杯やったよ。あの時代は普通のことだった。もちろん、90年代に入って金融実名制ができてからはそんなことはなくなったが、そういう風土がまだまだ残っているのは事実。だから、金英蘭法のように極端と思えるほど強い縛りのある法律がないと韓国社会は透明にはならない」

マスコミが金英蘭法の問題点を書き立てる中で、世論の66%は「(金英蘭法は)うまくいく」と肯定的な回答をしている(韓国ギャラップ、2016年5月17~19日)。たまたま乗ったタクシー運転手(60代、男性)に金英蘭法について聞いてみた。

彼は信号待ちの際、手をもむような仕草をしながら、「韓国社会はともかく持てる者の仲間入りしようとつけ届けをするのが当たり前のようになっている。最近話題になっている検事(釜山地検の現役検事)なんて自分が悪いことをしたっていう顔つきをしていない。たまたま運悪く捕まってしまったっていう顔だよ。食べて生きて行くためにこつこつ働いているほうがバカを見るような社会はもう終わりにしてほしい」と吐き出すように言っていた。

素行調査を目的とした塾も誕生

腐敗・汚職の防止に取り組む国際NGO「トランスペアレンシー・インターナショナル」が毎年発表している腐敗認識指数(各国の公的・民間部門との関係における腐敗度を調査と評価により数値化したもの)2015年版によると、167カ国中韓国は37位。上位3位は、デンマーク、フィンランド、スウェーデンの北欧が占め、日本は18位、中国は83位、最下位は北朝鮮とソマリアだった。

憲法裁判所の判決を受けて、金英蘭法は予定どおり9月28日に施行される。「講演料の制限により知識の伝達通路が塞がれる」(朝鮮日報2016年7月28日)と某名門大学教授がコメントしたり、「9月28日前に忘年会をしよう」などという冗談交じりの会話がちまたでも飛び交う。また、金英蘭法違反者を申告すると最大20億ウォン(約1億8000万円)の報償金と2億ウォン(約1800万円)の褒賞金が与えられる規程があることから、最近では、「『公益申告専門要員養成』を標榜する私設塾が新しくできた」(ソウル新聞2016年8月1日)。これは個人の素行調査を目的とした”パパラッチ塾”のことだ。

この騒ぎ、しばらく収まりそうにない。

菅野 朋子 ノンフィクションライター

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かんの ともこ / Tomoko Kanno

1963年生まれ。中央大学卒業。出版社勤務、『週刊文春』の記者を経て、現在フリー。ソウル在住。主な著書に『好きになってはいけない国』(文藝春秋)、『韓国窃盗ビジネスを追え』(新潮社)がある。

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