成功する人は「無益な感情」を捨てている 2000年前に「老子」が指摘した真実

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中国というのは、日本と違って、「自己主張の社会」です。

特に自分が不利益をこうむっているとなると、猛然とまくしたててくる方がたくさんいます。運悪くそんな場面にぶつかると、辟易する人も多いでしょう。こういう自己主張の激しさは昔からのことで、それを『老子』はいさめているのです。

『老子』という本がまとめられたのは今から二千数百年前、戦国時代のこととされますが、当時「諸子百家」と呼ばれるさまざまな思想流派が輩出して、激しい論戦を展開しました。論戦の主要なテーマは政治です。各派は自分たちの優位性を主張し、相手を論難してやみませんでした。そうした背景のなかから生まれてきたのが、この「無為自然」という考え方なのです。

『老子』の作者と見立てられているのが、老聃(ろうかい)という人物です。若き日の孔子が彼の評判を聞いてはるばる教えを受けにいったところ、老聃はこんな言葉を贈ったといいます。

「聡明で洞察力に富んでいながら、死の危険にさらされる人がいるが、それは他人を批判しすぎるからである。雄弁かつ博識でありながら、その身を危うくする人がいるが、それは他人の悪をあばくからである。そなたも自己主張はくれぐれも控えるがよいぞ」

おそらく若き日の孔子も、「俺が俺が!」と、やる気を顔に出していたのでしょう。それが人生体験を積んだ人物から見たら、危なっかしく思われたに違いありません。

日本の社会は、中国とは違って、自己主張にはいたって慎重です。下手に自己主張でもしようものなら、うるさい奴だとして、嫌われたり、敬遠されたりします。だから、仮に言いたいことがあっても、半分くらいは自分の腹のなかに収めて、まわりとの折り合いに気を使って生きてきました。

ところが近年日本でも、自己顕示のパフォーマンスをする人が目立つようになってきました。それなりの効用があっても、あまり露骨にやられると、つい「実力をつけるのが先だろう」と、周囲には疎まれてしまいます。

「上善は水の如し」――日本軍の失敗に学ぶ、柔軟性

「上善は水の如し」という言葉も、『老子』の言葉です。近年、酒の銘柄になったこともあって、広く知られるようになりました。最も理想の生き方は水のようなものだというのです。

ただし、水と言っても、『老子』のイメージにあったのは、たぶん河の流れでしょう。では、水とはどのようなところがすばらしいのでしょうか。

第一は、柔軟性です。水というのは、丸い器に入れると丸い形になり、四角な器に入れると四角な形になります。相手に逆らわず、相手の出方に応じていかようにもこちらの体勢を変えていく、そういう柔軟性を持っています。

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