「マザーズ指数先物」に過大な期待は禁物だ 「市場の安定化に一役買う」とは言い切れず

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さらに、「東証マザーズ指数先物」を利用した裁定取引においては、「SQ清算」が大きな懸念材料になる。

先物やオプションといった派生商品取引は、原資産との受け渡しが可能であることが前提に成り立つものである。株価指数を利用した裁定取引においては、この受け渡しをする場が「SQ」になる。「東証マザーズ指数先物」を利用した裁定取引を行う場合、この「SQ」が最大の懸念材料になりかねない。

「SQ」で、現物株を買い切る、売り切ることが出来なければ「裁定取引」は成立しない。これが出来なければ、裁定取引が単なる「相場取引(アウトライト取引)」になってしまうリスクがあるからだ。

東証マザーズの公式統計はないが、同じ新興市場であるジャスダック市場の統計を見てみると、7月15日時点の上場銘柄数771銘柄に対して、売買成立銘柄数は701銘柄にとどまっている。ジャスダック市場とマザーズ市場を同一視は出来ないが、全銘柄の売買が成立している東証1部と比較すれば、新興市場における売買不成立リスクは高いといえる状況にある。

マザーズ市場を「卒業」する銘柄が出てきた際に、指数との連動性を保つようにバスケットを管理することが難しい上に、「SQでの決済リスク」があることを考えると、マザーズ指数というのは「裁定取引」の対象になり難いといえる。

「裁定取引」の対象になりにくいということは、これまで通り「相場観」で参戦する投資家中心の市場が続くということであるから、期待するほど「取引の厚みが増す」とは限らないのだ。

「東証マザーズ指数先物」の登場によって「売りヘッジ」が出来るようになることが期待されているが、一方的な動きになりやすい市場で機動的に「売りヘッジ」をかけられるのは、逆張りをする投資家に限られるという状況に変化はない。

逆張りをする投資家は、これまで通り、市場全体が強気に傾く局面で保有銘柄を売却して持ち高を減らせば事足りる。「東証マザーズ指数先物」の登場によって投資行動が大きく変わるわけではないため、逆張り投資家にとって先物の必要性がそれほど高いわけではない。

市場参加者が頭に入れておかなければならないこと

頭に入れておかなければならないことは、市場参加者の「相場観」によって一方的な動きになりやすいマザーズ市場におけるヘッジ取引は、東証1部市場以上に難しいということだ。

裁定取引業者が少なければ、市場が強気に傾いた局面での「買いヘッジ」では理論価格以上に高い価格で先物を買わされ、市場が弱気に傾いた局面での「売りヘッジ」では、理論価格以下の安い価格で先物を売らされやすくなる。

このように考えると、「東証マザーズ指数先物」の登場によって、巷言われているほど「取引の厚みが増し」、機動的なヘッジ取引が行えるようになるとは限らない。

市場参加者がまず行うべきことは、「東証マザーズ指数先物」を利用した裁定取引がどのくらい活発に行われるのか、そして、9月の最初の「SQ」で混乱が起きないかである。「東証マザーズ指数先物」をどのように利用していくかは、これらを確認してから考えても遅くない。

市場参加者に求められる「リスクヘッジ」は、「東証マザーズ指数先物」の登場によって「先物を使ったヘッジ取引ができるようになり、取引の厚みが増す効果が期待できる」という幻想を描かないことだ。

近藤 駿介 金融・経済評論家/コラムニスト

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こんどう しゅんすけ / Shunsuke Kondo

1957年東京生まれ、早稲田大学理工学部土木工学科卒業後、総合建設会社勤務を経て、31歳で野村投信(現野村アセットマネジメント)に入社。株式、債券、先物・オプション取引等を担当した後、野村総合研究所に出向しストラテジストとして活躍。再び、野村アセットに戻ってからは、担当ファンドが東洋経済の年間運用成績第2位に選出されるなどファンドマネージャーとして活躍。その他、運用責任者として、日本初の上場投資信託(ETF)である「日経300上場投信」の設定・上場を成功させ、1996年に野村アセット初のプロフェッショナル・ファンドマネージャーとなる。現在は金融や資産運用に関する客観的な知識を広めるべく、合同会社アナザーステージを立ち上げ、会長兼CEOとして、一般向けの金融セミナーや投資セミナーなど専門家向けセミナー等も開催中。自身が手掛けるメルマガ『マーケット・オピニオン』は、個人投資家から圧倒的な支持を得る。

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