債券投資家はなぜアベノミクスに踊らないか 市場動向を読む(債券・金利)

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債券市場参加者はアベノミクスの行方を次のように見透かしているのではないか。

財政は乗数効果が低下、金融は異次元に踏み込めず

まずアベノミクスの第1の矢とされる「機動的な財政拡張」について。期待される政策効果とその波及経路は、(1)公的需要の追加→(2)需要不足の緩和→(3)景気の底割れ回避――」である。実際、「真水」が約10兆円とされる緊急経済対策の裏付けである今年度補正予算は、翌4~6月期の景気を確実に底上げするだろう。

しかし、「生産・所得・支出の好循環メカニズム」の起爆剤にはなりそうにない。対策の中身は旧来型の公共事業<人からコンクリートへ>が中心だからだ。“老朽インフラの更新投資”という触れ込みには多少新味が感じられるものの、実態が公共事業であることに変わりはない。とすると乗数効果も波及効果も低下しているはず。結局、今次対策も需要不足(デフレギャップ)の一時的、局所的な穴埋めにとどまり、財政収支赤字だけが拡大して終わるだろう。

第2の矢である「異次元の大胆な金融緩和」について。現実的な具体策が“国債の買い入れ増額と対象の年限長期化”が中心になるとすると、期待される政策効果とその波及経路は、(1)日本銀行バランスシートのいっそうの拡大、すなわちマネタリーベースの供給加速→(2)デフレ期待の払拭、インフレ期待の喚起→(3)投資・消費の活性化(=いわゆるトービン効果)である。

しかし、いくら安倍首相と考えを共有する「ポスト白川」日銀総裁でも、人々のデフレ期待をインフレ期待に塗り替えるような社会実験的な政策には踏み込めないだろう。それは一歩間違えると、財政ファイナンス懸念や財政インフレ期待を喚起し、「悪い円安」や「悪い金利上昇」のリスクを高めかねないからだ。結局、無期限・無制限緩和とはいっても“異次元”にまでは踏み込めず、デフレ期待の払拭にも至らない。

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