新幹線の海外展開が単なる輸出ではない理由 台湾高速鉄道に見る「現地化」の大切さ

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新幹線システムの採用を決めたインドは、世界でも鉄道利用者の多い国の一つだ(写真:kouji / PIXTA)

――インドは昨年末に新幹線システムの採用で日本と合意しましたが、以前は現地報道でフランス有利という説も見られました。日本システムの優位性はどこにあったのでしょうか。

インドに行って政府や与党の要人と話してよくわかりましたが、彼らは高速鉄道の導入にあたって、単にコストの単純計算をして点数を付けるのではなくて、どのシステムを入れたらインド社会を変革できるかというところを考えています。単に都市間移動の利便性だけでなく、高速鉄道によって社会が変わることを期待しているんです。

――「社会を変革する」とは具体的にどのようなことですか。

我々は、新幹線というのは交通手段を超えた、世の中を決定的に変革することができる社会システムだと強調しているんです。もし新幹線がなかったら日本がどうなっていたかと考えると、想像がつかないですよね。交通だけでなく、社会そのものを大きく変えたわけです。

台湾の首相も全く同じ事をおっしゃっていました。いままで鉄道で4時間かかっていたところを高速鉄道が1時間半で結んだことによって、台湾のライフスタイルや国民の意識を決定的に変えたと。そして、最初から高速鉄道がこのような変革をもたらすことに気付いていれば、計画段階でもっとスムーズに意思決定ができたと言っていました。これは、今後高速鉄道を計画している国にとって非常に大きな教訓だと思います。

「日欧混合」で生じたムダ

――スムーズな意思決定とはどういうことでしょうか。

台湾は初期の段階ではヨーロッパ方式を前提にスタートして、その後日本のシステムの採用に方針を変えたので、インフラについてはいろんな無駄が生じているんです。

――具体的にはどんな部分ですか。

特にわかりやすいのは3点あって、一つはトンネルです。ヨーロッパ方式の規格を前提にして工事を始めてしまったので、トンネルの断面積が90平方メートルあるんですね。新幹線の場合はヨーロッパと比較して車体幅が広いにも関わらず、64平方メートルで済んでいます。小さな断面でも環境上大きなインパクトを与えないように車両の研究開発をしているからです。車両とインフラが統合されたシステムだからできることです。

もう一つは橋です。ヨーロッパのシステムが新幹線と根本的に違うところは、衝突が起こりうることが前提という点です。だから車両が頑丈で重く、一座席あたりに換算すると新幹線の倍の重量があります。橋梁もその重さに耐えないといけないので、日本方式の台湾の車両が走るには必要ない頑丈さで建設されています。

駅のポイント(分岐器)もそうです。ヨーロッパ方式では車両の加減速性能が悪いことを前提にしているので、駅自体が非常に大きく長い。台湾高速鉄道の駅の大半は高架構造か地下なので、余分なインフラ整備を余儀なくされているんです。

これらを仮に日本方式で造った場合の試算と比べるとコスト面で非常に大きなロスが出ていますが、要するにシステムインテグレーションができていないからです。今回の会議で特に強調されたのは、高速鉄道では統合されたシステムがいかに大事かということです。

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