新幹線の海外展開が単なる輸出ではない理由 台湾高速鉄道に見る「現地化」の大切さ

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――単なる輸出ではなく、日本がリーダーシップをとりつつ各国で現地化して発展していくのが理想ということですね。

私はそもそも新幹線の「輸出」という言葉に違和感があるんです。車両だけならともかく、新幹線というシステムで重要なのは、その国が意思決定をしてプロジェクトを仕上げて、その後きちっとオペレーションして発展させていくことについて、必要な技術や情報、日本の知見を提供し、人材の育成に協力することです。

運営スキームに高い関心

――今回の会議には数多くの国が参加していましたが、各国が台湾高速鉄道について一番関心を持っていた部分はどこでしょうか。

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宿利正史(しゅくり・まさふみ)/IHRA理事長。1951年生まれ。1974年運輸省(現・国土交通省)入省。国土交通省総合政策局長、大臣官房長、国土交通審議官等を歴任後、2011年に事務次官に就任、12年退官。13年より東京大学公共政策大学院客員教授(撮影:尾形文繋)

高速鉄道プロジェクトにとって、財務構造やプロジェクトスキームがいかに重要かよく分かったという声がありました。台湾高速鉄道は単純にBOT方式で民間に任せて、投資資金を回収できると考えて失敗した例なんです。

そこで台湾は昨年、運営のスキームを決定的に変えています。当初は事業期間が35年だったんですが、これを70年に変えました。期間を倍にするということは、当然ながら引き受けた側が返済にあてる負担が非常に軽減されて、十分ビジネスとして成り立つようになった。さらに累積赤字が大きくて解消できないので60%強の減資をして、代わりに政府が資金を入れて支援する形になりました。

つまり、例えば最初から日本の整備新幹線方式のようにインフラは政府が引き受けて、オペレーターの経営が成り立つような一定の水準の額で貸し付けて、あとは民間の運行側が努力する、という方式だったらうまく行ったかもしれませんが、民間側で全部回収しなさいということで無理があったわけです。これは、高速鉄道を計画している国がプロジェクトスキームを決めるときに、極めて重要な参考例です。

――マレーシアのクアラルンプールとシンガポールを結ぶ高速鉄道計画が注目を集めています。会議には両国からも関係者が参加していましたが、彼らの反応はどうでしたか。

例えば、シンガポールの責任者の方は、日本のクラッシュアボイダンス(衝突回避)のシステムが最善なのはよくわかっているが、シンガポールの法規などと整合させないといけないので、システムをガチガチに日本方式で固めなければならないとなると辛いと言っていました。

私が、新幹線システムはコアの部分が重要であって、あとはそれぞれの国のニーズに合わせていくものだから全く問題ないと言ったら非常に安心していましたが、そこが彼らの一つの関心事ですね。

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