損傷を受けた脳は、いかに自己回復するのか

神経可塑性研究の最前線

使わなければ失われる脳の神経回路の性質を利用して…(写真:ktsimage / PIXTA)

複雑かつ精巧であるゆえ

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人間の脳は宇宙のなかで最も複雑かつ精巧であるとよく言われる。そして、それほど複雑かつ精巧であるゆえ、一見小さな損傷が大きな障害をもたらすことがある。だがそれと同時に、わたしたちの脳は驚くべき「神経可塑性(neuroplasticity)」を有してもいる。

ここでいう「可塑性」とは、(プラスチックが熱を加えられたときに形を変えていくように)「自己の活動や心的経験に応じて、脳が自らの構造や機能を変える性質のこと」である。では、人間の脳にはどれほどの可塑性が備わっているのか。また、その可塑性を利用して、脳の機能回復を促すことは可能だろうか。

本書は、神経可塑性を利用して実際に脳の機能回復を成し遂げた驚くべき事例を紹介している。それらが「驚くべき」と言われるのには、いくつか理由がある。まずひとつは、それらの治療法が目新しいものであること。もうひとつは、一般に治療のむずかしい疾病や障害に対して、それらが現に効果を発揮していること。さらにもうひとつは、それらが「非侵襲的」かつ「自然」な治療法であることだ。すなわち、切開などで皮膚や身体組織を傷つけたりはせずに、むしろ脳に本来備わっている治癒の力を引き出す、というのがそれら治療法のポイントである。しかし、そんなことがいったいどうして可能だというのだろう。

ここで、神経科学の文献に少しでも明るい人であれば、V・S・ラマチャンドランによる幻肢の治療を思い出すかもしれない。そして、じつは本書でも、それと多少とも似た(しかしもちろん異なる)治療例が第1章で紹介されている。そこで紹介されているのは、慢性疼痛(とんつう)の治療である。

耐えがたい痛みに苦しめられ続け、日常生活を満足に送れない人たちがいる。そうした患者にとってとくに辛いのは、そもそもの痛みの原因(身体の損傷など)が取り除かれたにもかかわらず、その後も激しい痛みがいっこうに治まらない点だ。自らが医師であるマイケル・モスコヴィッツも、ある事故をきっかけにして、首に慢性的な痛みが生じてしまった。さまざまな治療を受けてはみたものの、その痛みは結局10年以上もつきまとい、しかも時間の経過とともにひどくなるばかり。さて、どうしたものだろうか。

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