「病は気から」は、科学的に解明されつつある 医療における「心」の役割とは?
右にせよ、左にせよ、極端に意見が偏っている人ほど声がでかい。おそらく正解はその中間のどこかにあるはずだが、そこに位置するマジョリティ達は、自ら多くを語ろうとはしない。いずれにしても、両極のどちらが正しいのかという観点からは、何も生まれぬままに終わるケースが多いだろう。
プラセボ効果における研究の進展
近代以降の歴史を振り返ると、この手の問題はあらゆる領域に蔓延していた様子が見てとれる。そして医療の分野も、ご多分にもれずであった。合理的で還元主義的な、西洋医学の擁護者たちと、物質より非物質的なものを優先する代替医療や東洋医学の信奉者たち。言い換えれば、これらの対立は身体と心の代理戦争のようなものであったのかもしれない。
「代替」というネーミングからも推察される通り、長らく優勢を占めてきたのは西洋医学の方だ。しかし今、その歴史に変化の兆しが現れつつある。プラセボ効果における研究の進展をはじめ、医療における「心」の役割が解明されつつあるのだ。
これくらいキワドいテーマであれば、書き手が誰であるかも気になるところだが、著者は『アンティキテラ 古代ギリシアのコンピュータ』や『ツタンカーメン 死後の奇妙な物語』等で知られるジョー・マーチャントだ。仮想世界の氷の渓谷から、聖地ルルドまでを飛び回り、従来「非科学」とされていた領域に「科学」の足跡を見出していく。
まず初めに紹介されるのは、心が身体に及ぼす影響のうち、最も代表的な例であるプラセボ効果についてである。様々な対照試験の結果や生化学的な効果の証拠を目の当たりにし、多くの専門家は認識を改めることを余儀なくされた。「プラセボ効果は壊すべき幻想ではなく、実際に臨床価値を持つ場合もあるのではないか」と。
最近では、まずプラセボでの治療を試し、効果がない場合のみ実薬を投与するといった事例や、プラセボと実薬を併用し、薬の量を減らすための用法も試されているのだという。つまりは代替から補完へ、一見退化のように思える認識の変化から、進化が始まったのだ。
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