日本でも盛り上がる企業とNPOの協働
とはいえ、ハーバード大学の教授が「CSV」を提唱していると言われても、ピンとくる人は少ないかもしれない。しかし、実は日本企業の間でも、NPOとの協働をうまく活用することで「CSV」の考え方を実践しようとする動きが、すでに注目を集めるようになっている。
昨年3月、日経流通新聞(日経MJ)の一面に「CSR新時代」というタイトルで大きな特集が組まれた。紙面には「社会貢献が企業を鍛える」「社員成長、商品開発に一役」「人脈や情報が企業に魅力」などといった文字が躍り、パナソニックや東急不動産、ベネッセコーポレーションといった日本の大企業とNPOとのさまざまな協働の事例が紹介された。
ポイントは、ここでいう協働が、寄付やボランティアなどといった伝統的なチャリティー活動の枠組みを超えたものだという点にある。これは、日本企業がNPOとタッグを組んで、社員育成や新製品の開発といった本業の事業活動を行うという、新たな潮流だ。
では、なぜいま企業はNPOと積極的にかかわっていくべきなのか。日本企業の方々とお話させていただく機会の多いNPOの経営者として、その理由を僕なりに3つほど挙げてみたい。
理由(1): 企業が入り込めない現場で顧客の声を聞けるから
企業がNPOと協働すべき第1の理由は、活動現場を持つNPOに入っていくことで、企業が普段聞くことのできない顧客の生の声を聞けることにある。
先の日経MJにも取り上げられた事例に、ベネッセとNPOカタリバの協働がある。NPOカタリバは、進路など高校生の本音を引き出す対話の授業を大学生ボランティアが行う「カタリ場」と呼ばれる出張授業プログラムを運営している。ベネッセは、この「カタリ場」の活動に社員を業務として参加させているのだ。
なぜか。理由は簡単だ。企業単独では近づけなかった教育現場での活動に入り込むことで、高校生たちから「通常のグループインタビューでは聞けない本音が次々と飛び出す」ことにベネッセが魅力を感じているからだ。高校生の進路希望や悩みを直接聞き、肌感覚で理解することで、より良い商品・サービスをつくることができる。高校生のために社会人としての経験を伝える「社会貢献活動」であると同時に、ビジネスにもよい効果を得ることができるのだ。
また、本連載の第2回でも紹介した、クロスフィールズがベトナムNGOでの「留職」をアレンジしたパナソニックの社員さんも、「データや調査リポートを通じて見ていたベトナムとはまったく違う、そこに住む人たちの“顔”が見えるようになった」と繰り返し語っていた。NPOとの協働が、駐在員事務所の職員たちがアップタウンの駐在所と高級住宅地とを往復することでは見えてこない、現地マーケットの深い理解へとつながっている。
このように、先進的な企業は、NPOを生活の現場を熟知する戦略的なパートナーだととらえ、NPOとの協働を通して社会の現場に入り込もうとしているのだ。
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