「時給910円」で働く39歳男性の孤独な戦い

正社員から派遣を経てアルバイト生活

多くの債務者はヤミ金からも借金をしていたので、自殺の直接の原因はわからない。しかし、それ以上働き続けることはできなかった。退職後には苛烈な取り立てなどが社会問題となって消費者金融業自体が衰退、勤めていた会社も早々に別会社に統合された。

人とかかわる仕事に嫌気が差したこともあり、その後は退職金をつぎ込み、専門学校で専門技術を習得。正社員の働き口は年齢などの面で難しかったが、派遣社員として大手電機メーカーで働いた。このときは月収30万円ほどで人間関係も良好だったが、2008年のリーマンショックのせいで派遣切りに遭った。

正社員による「派遣いじめ」

新たな派遣先は大手家電メーカーの関連会社。歩合制で月収は20万円にダウンした。ひどかったのは派遣先の正社員による派遣いじめだった。同僚男性の1人は報告書の書き方が悪いと、上司である正社員の席の後ろに長時間、立たされた。「教えてください」と頼んでも、「自分で考えろ」、自席に戻ろうとすると「なんで戻るんだ」と怒鳴られる。男性の報告書を見ると、自分のものと大差ない。この家電メーカーが深刻な経営危機にあることは報道などで知っていた。上司はストレス解消に立場が弱く、性格のおとなしい男性を標的にしているだけだったのだ。このため派遣元に訴えたが、なしのつぶて。だから派遣先会社の社長に手紙を書いた。すると、派遣元担当者から呼び出され、すさまじい剣幕でこう言われたという。

「取引先に何てことしてくれたんだ。会社の損失がどれだけになるかわかってるのか」

男性はうつ病になって辞めた。タカシさんは、彼が何度も消しゴムで消しては書き直し、ぐちゃぐちゃになって破れそうになっていた報告書が忘れられないという。タカシさん自身もほどなくして退職。たどり着いたのが現在のそば店である。

正社員時代は他人の人生を破壊するような仕事を強いられ、手に職を付けて飛び込んだ派遣労働では雇い止めや正社員からのパワハラを目の当たりにした。給与も待遇も右肩下がり。そして、今、自分が抜け出せない非正規スパイラルの中にいると感じる。

タカシさんはことあるごとに声を上げてきた。派遣先社長に直訴もしたし、派遣時代に休業手当が出なかったときは管轄の労働基準監督署に相談もした。現在は牛丼チェーン「すき家」の残業代不払い問題への取り組みなどで知られ、個人でも加入できる労働組合「首都圏青年ユニオン」に駆け込み、会社側と話し合いを進めている。

実際の雇用契約書。時給1090円のはずが……

ユニオンの申し入れにより、現在は、不十分ながら有休取得も、社会保険などの加入も可能になった。一方、時給を1090円とするか、910円とするかをめぐっては、両者の主張は平行線のまま。タカシさんは時給1090円を基に算出した割増賃金分を未払い残業代として請求しているが、会社側は拒否しているという。

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