貿易収支が改善していることも有力な円高要因である。この点は当連載の昨年12月11日号でも指摘しているので、ご記憶にあれば幸いだ 。月次ベースの季節調整値で見ると、日本経済は東日本大震災があった2011年3月からずっと貿易赤字が続いていた。ひどいときには8カ月連続で毎月1兆円以上の赤字、という時期もあった。それが昨年11月からわずかながら黒字に転じている。実に56カ月ぶりの黒字復活である。貿易収支がこれだけ改善したら、「実需の円買い」が生じるので円高になるのも無理からぬことであろう。
こうしてみると、円高要因はあまりにも多い。明日の国民投票は是非「残留」でお願いしたいが、その場合も1ドル100円を超えて一方的な流れになるかといえば、そうでもないんじゃないかと筆者は考えている。
今週は貿易統計の5月分速報値が発表された。原数値は4カ月ぶりの赤字となり、季節調整値でみても4月の3970億円の黒字が5月は2698億円に減っていて、ちょっとした潮目の変化を感じさせる。
日本は国全体が円高恐怖症である
それというのも、この1年くらいの貿易収支の急激な改善は、ほとんど石油価格の下落だけで説明できてしまうのだ。この間、日本の輸出は増えていない。つまり輸出が減る以上の速さで輸入が減ったから、月次の貿易収支が改善しているに過ぎない。それくらい日本企業の現地生産は進んでいるし、海外の需要も強くはないのであろう。他方、石油価格は1バレル50ドル前後とはいえ、さすがに底入れしたように見える。ゆえに貿易黒字が今後もますます拡大するという地合いではない。
ということは、貿易収支改善による円高効果は一巡したと見ることができる。ゆえに今回の国民投票の結果次第では、「リスクオンの円安」でも何の不思議もないということだ。
いつも感じることであるが、「日本は国全体が円高恐怖症である」という点も、投機筋に対して「円高に仕掛ける誘惑」を提供するという意味で、円高になりやすい理由のひとつと言える。つまり、「日本政府と日銀は円高を過度に警戒している」ように見えることが、自己実現的な円高を招きやすい一因となっている。
筆者の見るところ、日本経済は業種によって6割が円安歓迎、4割が円高歓迎といった感じである。ところが表面的には8対2以上で円安待望の声が強くなる。というより、円高になるととたんに悲鳴が聞こえてきてしまうのである。
無料会員登録はこちら
ログインはこちら