銃撃犯がいても試験を続ける米名門校の病弊 UCLA銃撃事件…そのとき何が起きていたのか
銃犯罪が身近にある地域で育った学生はほかにもいる。UCLA卒業生で、この「非暴力講座」を聴講しているというデニース・ディメリオは、LAのサウスセントラル出身。サウスセントラルと言えば、ギャングの抗争が激しい地域で、多くの若者が銃で殺されている場所だ。
「うちの近所では、若者の葬式が日常茶飯事。銃犯罪のメッカのような場所だから、家に帰るときは、全身を研ぎ澄ませて周囲の安全確認をするけど、まさか、白人中産階級の多いこのキャンパスで、こんな銃犯罪が起きるとはね。つまり、どんな場所でも起こるってことよね」
皮肉なことに、事件当日の正午、この非暴力クラスは、学内で非暴力を訴える公開イベントを計画していたという。
非暴力で黒人公民権運動を推進したキング牧師の友人だった市民活動家のジム・ローソン氏は困惑する学生にこう語った。「米国という国は、他国を攻撃し続けてきたが、国外に対して暴力を使うことをやめなければ、国内の暴力も終わらないと思う」。
同クラスを教えるケント・ウォング教授も「アメリカ以外の他国ではこんな頻繁なスクールシューティングは起きていないのはなぜなのかを考えよう」と語った。
セキュリティの「盲点」を突いた事件
今回の事件では、スタンフォード大で修士を所得し、UCLAの博士課程を卒業したマイナク・サーカーが犯人だ。犠牲者は、UCLAで修士を取り、カリフォルニア工科大学で博士号を取得し、UCLAの教授となったウィリアム・クラグ。ふたりの年齢はそれぞれ38歳と39歳で歳の差は1歳だけだ。
犯人は別居中の妻をミネソタで殺した後、LAに車で向かった。クラグ教授ともうひとり別の教授の名前をあらかじめ「殺害リスト」に書いていた。
銃は合法的に買ったもので、キャンパス内は銃禁止だが、チェックされずに持ち込んでいる。私立大学と違い、誰でも気軽に学内に入れるところが公立大学の良さでもある。だが、そんなオープンなキャンパスのセキュリティの「盲点」を突いたのが今回の事件だった。
キャンパス内にある「熊」の銅像には、殺された教授へのメッセージと花束が山積みになっていた。その横で、この悲劇を利用するかのように「ジーザスを信じないからこんな犯罪が起きるのだ! 自分たちの教授が殺されたのに何も感じないのか!」と叫ぶキリスト教右派の宣教師がいた。
ノーマルさを装っていた学生のひとりが、その挑発にブチ切れ、宣教師と激しい言い争いになった。
それを取り囲む学生の輪ができ、歓声や応援の声が飛ぶ。そんなやりとりを見ていた政治学科4年のキミヤ・ギラニは言った。「私たち学生を含め、誰でもこうしてキャンパスの中に入れ、言いたいことをおおっぴらに言い合える。皆がナーバスになっている今だからこそ、公立大学のこのオープンさが、むしろ救いになっていると思う」。
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