広告宣伝費頼みの「急成長」には限界がある 今知りたい「グロースハック」の基本

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そこで着目したのが、「グロースハック」の考え方です。

グロースハックとは製品開発を軸にした成長戦略

近年では国内外でグロースハックを取り入れた事例をいくつも見聞きするようになりましたが、特に代表的な成功例として私はよく、空き部屋のオンラインマーケットプレース・Airbnbを紹介しています。

当時、空き部屋のオンラインマーケットサービスというものは存在していなかったのですが、Craigslistというコミュニティサイトの中に似たようなコーナーがあり、知名度とユーザー数を誇っていました。そこでAirbnbは、空き部屋を持っている大手のオーナーがAirbnbに情報を登録する際、自動的にCraigslistにもその物件情報が登録されるようにしたのです。そうすることで空き部屋を探しているより多くのユーザーの目にとまるようになり、かつCraigslistを経由して訪れたユーザーがAirbnbユーザーになっていくという仕組みを作り、ユーザー数を伸ばしていきました。

このようにグロースハックとは、「製品・サービスそのものに成長の仕組みを取り入れる」――つまり製品開発がそのまま成長に結びつく成長戦略です。これは社員の半数以上がエンジニアとデザイナーからなるVASILYにぴったりの方法論でもありました。

グロースハックは、ハック(hack)という言葉によって誤解されることがよくあります。コンピュータへの不法侵入を連想しやすいためでしょうか。

私たちスタートアップ界隈の人間にとって、「ハック」とは技術を使って創意工夫していくことであり、「ハッカー」という言葉は本来、「技術に精通するひと」「技術で問題解決をするひと」という意味を持っています。

グロースハックのチームは、この「ハッカー」(開発を担うエンジニア)と、「ヒップスター」(デザイナー)、「ハスラー」(ビジネス交渉、プロモーションから夜食の買い出しまで、開発とデザイン以外のすべてを担当する役割)の3人1組が原則です。完全に役割分担したうえで、それぞれがゴールに向かって自分の領域に集中する。それがコラボレーションによるアイディアの創出とスピード感の両立につながります。

さて、私たちが行った最大のグロースハックは、それまでウェブサービスであった「iQON」のスマートフォンアプリを、2012年という早い段階で開発したことでした。ユーザー獲得のための広告宣伝ではなく、これから求められるだろう市場に向けてサービスを展開したわけです。

結果として「iQON」は、アプリサービススタート初期に、広告費ゼロで100万人ユーザーの獲得に成功。Appleが選出する「App Store BEST of 2012」にも選ばれ、一気にサービス拡大が加速しました。現在ユーザー数は200万人を超えています。

グロースハックは一度テコ入れをして終わりというものではなく、施策の積み重ねが基本です。実施の詳細は『いちばんやさしいグロースハックの教本』に書いた通りですが、まずはフレームワークに沿って、成長のために現在足りていない要素を洗い出す必要があります。このとき5段階のチェックポイントとして、私たちは「ARRRA(アーラ)」モデルと呼ぶフレームワークを利用しています。

①サービスの価値をまずは体験してもらって「ユーザーの活性化」(A:アクティベーション)を促し、②サービスの利用を「継続」(R:リテンション)してもらう。そこから、③友人などに「紹介」(R:リファラル)してもらってさらにユーザー数の増加を見込み、④課金システムなどで「収益化」(R:レベニュー)を目指す。最後にその収益を投資して、⑤「ユーザーの獲得」(A:アクイジション)をさらに進める。

次ページ2回、3回とサービスを使ってもらえる状態を目指す
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