求人情報と違う労働条件が横行し続ける理由 根本的な問題はあまり変わらない
過去の裁判においても、求人票に記載された労働条件が雇用契約の内容になると判断したケースがある(千代田工業事件・大阪高判平成2年3月8日労働判例575号59頁)。
この判決は、職業安定法が求人の申込みにあたってハローワークに対して労働条件を明示しなければならないと求人者に義務づけている趣旨について、以下のように述べている。
「職業安定法18条(※現5条の3第2項)は、求人者は求人の申込みに当たり公共職業安定所に対し、その従事すべき業務の内容及び賃金、労働時間その他の労働条件を明示すべき義務を定めているが、その趣旨とするところは、積極的には、求人者に対し真実の労働条件の提示を義務付けることにより、公共職業安定所を介して求職者に対し真実の労働条件を認識させたうえ、ほかの求人に応募するかの選択の機会を与えることにあり、消極的には、求人者が現実の労働条件と異なる好条件を餌にして雇用契約を締結し、それを信じた労働者を予期に反する悪条件で労働を強いたりするなどの弊害を防止し、もって職業の安定などを図らんとするものである。」
そのうえで求人票の内容が雇用契約の内容になるかについて以下のように判断している。
「かくの如き求人票の真実性、重要性、公共性等からして、求職者は当然求人票記載の労働条件が雇用契約の内容になることを前提としていることに鑑みるならば、求人票記載の労働条件は、当事者間においてこれと異なる別段の合意をするなど特段の事情のない限り、雇用契約の内容になるものと解するのが相当である。」(千代田工業事件・大阪高判平2.3.8労判575号59頁)
また、求人票に虚偽の記載をして使用者が労働者に過大な期待を抱かせた場合、労働契約締結過程における信義則違反として不法行為が成立し損害賠償が認められる場合もある。
現実的には、ユニオン加入が有用
法律的には、求人票の記載に「だまされて」しまった場合、求人票の記載どおりの労働条件を適用させたり、損害賠償を請求したりなどの救済手段が存在しているが実際には裁判までして争うことは困難な場合も少なくない。
このような被害に遭った場合、労働組合(ユニオン)に加入して団体交渉を通じて解決することが現実的には極めて有用である。
今回の厚労省の動きのように法規制によって求人票への虚偽記載を防止する意義は確かにあるが、それだけではやはり不十分である。
就職活動をする労働者の立場に立てば、求人情報の信頼性こそが安全に就職をするうえでの唯一の頼みの綱である。労働者を募集する企業側が、求人票で実際の労働条件とは異なる条件を提示して労働者を寄せ集めて採用を行うことは、極めてアンフェアで、労働者保護の立法が求められている。
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