イチローの世界記録を支える緻密な自己管理 「最高の先行条件」が超一流の結果を生み出す

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行動科学マネジメントでは、この先行条件を整えるために、「フロント行動リサーチ」と呼ばれる作業を行います。そして、「ターゲットとする行動(ターゲット行動)」が起こる直前の環境を明らかにすることで、行動をコントロールしやすい環境を整えていきます。

●発生する頻度、持続時間は?
●どのようなときに発生しやすいか?
●どのような場所で発生しやすいか?
●発生する前に、あなたが行う行動や出来事は?
●発生する前に、あなたの周囲の人が言ったことや行動は?
●発生しにくいのはどんなとき?(場所、一緒にいる人、状況など)

 

イチロー選手は、この先行条件を驚くほど綿密に整えていることがうかがえます。一時期、毎朝カレーを食べているというニュースが話題になりましたが、現在でも、本拠地で試合がある日は起床後、自宅の器具でトレーニングを行い、ナイターの場合は午後2時前後にクラブハウスに入り、3時ごろに練習用のユニホームに着替えてウオーミングアップを始めると言います。そして、バッターボックスへの入り方や、構える際のバットの回し方や、その際の袖口をさわる所作まで、すべてが同じです。

おそらく、長年の経験のなかで

【A】起床してからバッターボックスに入るまでの一連の「先行条件」を整え
【B】バッティングをするという「行動」をとることで
【C】安打という「結果」が最も出やすい

 

ことを感覚として理解しているからでしょう。

最高の先行条件が最高のパフォーマンスを生む

最高のパフォーマンスを実現するために、決まった手順を踏むやり方は、最近ではルーティンワークという言葉で定着していますが、イチロー選手で特筆すべきは、起床してから打席に入るまでのすべてのプロセスがルーティン、すなわち先行条件になっていることです。これだけ、先行条件を強固にしているからこそ、ターゲットにしている行動を高い確率で実現することができるのでしょう。

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野球は、3回に1回安打を打てば、打者として一流と言われる世界です。すなわち、安打を打つことは、3回に2回以上失敗する可能性がある、非常に困難なターゲット行動であると言えるでしょう。そうしたなかでも、継続して結果を出せるのは、イチロー選手が体調管理、技術のチューンナップなども組み入れた、「最高の先行条件」を設定できているからではないでしょうか。

最多安打記録更新後のインタビューで、イチロー選手が「(ローズ氏の記録に)ゴールを設定したことがない」と話しているのが、印象的でした。メジャー通算3000安打、そして、常々話している「50歳まで現役」すら想定しているのではないかと感じます。ゴールに至るために、どのような行動をとればよいか把握し、日々の行動にフォーカスを当て、淡々とセルフマネジメントを続けていく――。私たちがイチロー選手に学ぶべきことは少なくありません。

石田 淳 社団法人行動科学マネジメント研究所所長

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いしだ じゅん / Jun Ishida

株式会社ウィルPMインターナショナル代表取締役社長兼最高責任者
社団法人行動科学マネジメント研究所所長。(株)ウィルPMインターナショナル代表取締役社長兼最高責任者。アメリカ行動分析学会(ABAI)会員。日本行動分析学会会員。日本の行動科学(分析)マネジメントの第一人者。

アメリカのビジネス界で絶大な成果を上げる人間の行動を科学的に分析する行動分析学、行動心理学を学び、帰国後、日本人に適したものに独自の手法でアレンジし「行動科学マネジメント」として展開させる。

精神論とは一切関係なく、行動に焦点をあてた科学的で実用的なマネジメント手法は、短期間で8割の「できない人」を「できる人」に変えると企業経営者や現場のリーダー層から絶大な支持を集める。現在は、日本全国の人材育成、組織活性化に悩む企業のコンサルティングをはじめ、セミナーや社内研修なども行い、ビジネスだけでなく教育、スポーツの現場でも活躍している。日経BP「課長塾」の講師でもある。

主な著書に累計部数40万部のベストセラーとなった『教える技術』『〈チーム編〉教える技術』『マンガでよくわかる 教える技術』『マンガでよくわかる 教える技術2<チームリーダー編>』、大判の『〈図解〉教える技術』(すべて小社)ほか多数ある。趣味はマラソンとトライアスロン。

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