消費増税の先送りは正しい判断だったのか 2025年以降の社会保障費急増に無策のまま

✎ 1〜 ✎ 39 ✎ 40 ✎ 41 ✎ 最新
拡大
縮小

消費税率の引き上げを延期するのではなく、凍結すべきだったという意見もある。消費税率引き上げがあると分かれば、その時点で将来生活水準を下げなくてはならないと考えて、増税のはるか前から消費を切り詰める人もいるだろう。延期では消費税率が上がる時期が変わるだけなので、凍結によって消費税率引き上げがまったく視野に入らないという場合に比べれば、消費者が増税に備えるので消費水準がいくらか低いという可能性はある。

しかし、そこまで先のことを考える人は少ないようで、過去にははっきりとした影響があったとは見られない。また、消費税率の引き上げ凍結を宣言したところで、日本の人口高齢化が止まるわけではないから、高齢化の進展による社会保障費の増加に対応するために、どこかで増税しなくは乗り切れないということは変わらない。消費者が正確に状況を理解していれば、政府が消費税率を引き上げるのを延期しようが凍結しようが、タイミングがずれるだけでどこかで増税は不可避だと考えるはずで、当面の消費に与える影響はそれほど大きくないと考えられるのだ。

日本の社会保障費は2025年ごろから急増

従って、2017年度からの消費税率引き上げが延期されたことによって、将来の増税を見込んだ消費の減少はなくなるはずだが、その影響は小さい。2016年度については、増税前の駆け込み需要がなくなる効果のほうが大きく、むしろ実質GDP(国内総生産)は小さくなる。2017年度については、増税前の駆け込み需要の反動による消費減が起こらないし、実際に増税が行われたことによる実質所得の減少も起こらないので、実質GDPは大きくなる。

日本経済研究センターは、経済見通しを作成している民間エコノミスト約40名を対象に毎月「ESPフォーキャスト調査」を行っている。これによれば、増税延期決定前の5月調査では実質経済成長率の見通しは、2016年度0.9%、2017年度は0.0%だったが、増税延期表明後の6月調査では、2016年度は0.7%に低下した一方で、2017年度は0.9%へと大きく高まっている。経済成長率の予測が変わったのは、消費税率の引き上げ延期だけが原因ではないが、最も大きな要素であることは疑いない。

次ページ将来必要な消費税率は何%か
関連記事
トピックボードAD
政治・経済の人気記事
トレンドライブラリーAD
連載一覧
連載一覧はこちら
人気の動画
日本の「パワー半導体」に一石投じる新会社の誕生
日本の「パワー半導体」に一石投じる新会社の誕生
TSUTAYAも大量閉店、CCCに起きている地殻変動
TSUTAYAも大量閉店、CCCに起きている地殻変動
【田内学×後藤達也】新興国化する日本、プロの「新NISA」観
【田内学×後藤達也】新興国化する日本、プロの「新NISA」観
【浪人で人生変わった】30歳から東大受験・浪人で逆転合格!その壮絶半生から得た学び
【浪人で人生変わった】30歳から東大受験・浪人で逆転合格!その壮絶半生から得た学び
アクセスランキング
  • 1時間
  • 24時間
  • 週間
  • 月間
  • シェア
会員記事アクセスランキング
  • 1時間
  • 24時間
  • 週間
  • 月間
トレンドウォッチAD
東洋経済education×ICT