JTBが花火大会でパイプ椅子席を売るワケ ある営業所長が気づいた「提供価値の大転換」

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永井:プロダクトがない。そこで作ったら、作る側の論理だけで「プロダクトアウト」になってしまった……。

パイプ椅子の有料観覧席は完売

武田:せっかくなら、お客様が喜んでいただける面白いものをやりたいですよね。

たとえば、諏訪では6年ごと行われる諏訪大社の御柱祭があります。これは氏子、つまり地域で祀っている氏神様を信仰する人たちの、地域のための祭なんですね。大きな柱が坂をすごい勢いで落ちてくるのが有名で、全国各地からお客様がたくさん来ます。でもお客様が実際に諏訪に来てみると、どこで何をやっているかがまったくわからなかったんです。

永井:本来は地域のための祭で、地域の人は知っているから、詳しい案内は不要ということですか。

武田:駐車場の案内があるくらいで、どこで何をやっているかわからないので、来たお客様は人混みだけを見て、渋滞の中を帰ることになります。もう来たくなくなりますよね。

永井:もったいないですね。

武田:そこで地域の方々とお話しして、諏訪大社上社の御柱が滑り落ちる坂の下にパイプ椅子を1700個並べて、観覧席を作りました。御柱は2日間で合計8本落とされるので、全部入れ替え制にして、有料で販売したんですよ。

永井:合計1万3千席を超える有料観覧席、かなりの売り上げですね。

武田:結果、完売でしたね。それまでは地元の人がゴザやシートを敷いてお酒を飲みながら見ていたわけで、外から来たお客様はなかなか入りにくかったようです。その売り上げで、案内看板や地図を作ったり、物産広場を設けたり、ゴミ処理や警備員による安全確保に取り組みました。

永井:有料席の売り上げがあるから、警備やゴミ処理といった、本来は行政がやるような仕事までできたわけですね。

武田:8本の柱にあわせて、8色の法被を作ってチケットの代わりにするアイデアも出しました。法被の色で入場管理ができるので、入れ替えもスムーズでした。観光客も法被を着て、応援の掛け声をしていると祭りの一体感が生まれます。さらにお客様は「信州諏訪御柱祭」と書いてある法被着てほかの街に行くので諏訪の宣伝にもなりました(笑)。

永井:この経験は、ほかでも生かせたのではないですか?

武田:諏訪では、JTBが協賛させていただいている新作花火競技大会があります。花火師さんの準備エリアが有効に使われていませんでした。そこで行政の方とお話しして、その場所を買い取ってパイプ椅子を並べて、販売しました。

永井:出た! パイプ椅子!(笑)。

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