前回までは、実際に裁判で争われたパワハラ事案を例に、会社や上司が損害賠償を請求されるケースについて見てきました。
会社や上司(管理職従業員)は、従業員同士のトラブルや従業員同士のいじめについても、安全配慮義務違反等の責任を問われる可能性がある点には注意が必要です。
法律に規定のないパワハラ違反をどのように問うか
では、安全配慮義務違反を含め、会社や上司が損害賠償請求のリスクを抑えるためには、どのような対策を講じておくべきしょうか。
対策を考える上で、会社や上司が損害賠償を請求される法的根拠を押さえておきましょう。前回のコラムでも解説しましたが、パワハラを直接規定した法律は存在しません。ですので、パワハラ被害の責任は次の3つで問われる可能性があります。
1 不法行為責任(民法709条)
もっともシンプルで包括的な法律です。故意又は過失により、他人の人格権や身体の安全、場合によっては生命を侵害した場合に、発生した損害(慰謝料も含む)を賠償する責任です。具体的には上司自身が、部下に対し、パワハラ行為を行う場合等が該当します。
2 使用者責任(民法715条)
従業員が勝手に行った言動についても、会社の業務の一環として(正式には「事業の執行について」)行われた場合には、会社が、従業員の行為による損害を賠償する責任を負います。
例えば、会社の業務を行う過程で、従業員Aが従業員Bに対してパワハラを行った場合、Bは、Aに対して損害賠償責任を追及できるほか、会社に対しても、損害賠償責任を追及することができます。
ただし、Bは、会社と従業員Aのどちらからも二重取りすることはできません。
パワハラの存在が認められ、会社またはAのいずれかがBに損害賠償を支払った場合には、過失の割合に応じて、会社からA、または、Aから会社に対して、求償することができます(Bに支払った分のお金を請求できます。)。
簡単に言えば、パワハラの原因が専ら加害者Aにある場合には、会社はAに対し、パワハラを行ったことの責任を求めることができます。
逆に、加害者Aには故意が無く、パワハラの原因は、会社が管理責任または周知徹底を尽くしていなかったことにあると判断される場合には、Aから会社に対する求償請求が認められる可能性があります。
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