子ども食堂で考える、貧困対策に必要なこと 「困っている人は来てください」とは言わない

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「ひとり親支援で豊富な経験があるインクルいわてが、こども食堂を手掛ける意味は大きい。他の多くのこども食堂と比べた特徴は3つあります。

①福祉行政の専門家や対等な立場で話を聞くピアカウンセラーがいること、②食堂に来た親子が徐々に運営に参加し、自分が持つ経験や力を発揮する機会を得られること、③地域の理解を促進する機能があること。

こども食堂そのものを広めるというより、地域を巻き込む包括的な支援のモデルを作りたい」

普通の人が関われる仕組みを

何より大事なのは「支援する、されるのではなくて、その人が本来持っている力を引き出しあうこと」(山屋さん)という、エンパワーメントの発想だ。インクルいわてのこども食堂に関わる大久保さんは、他地域でこども食堂をはじめたい人に、次のようにアドバイスする。

「通所介護施設など、キッチンのある建物を借りるなど、工夫してやってみてほしい。続けることに意義があります」

こども食堂の一角には、制服リサイクルのコーナーも

こども食堂に関わる人は、居場所づくりや地域のつながりを再生したいと考えることが多い。「貧困対策の専門家ではなく、理解のある普通の人を増やすことが大切です」(栃沢さん)という言葉も覚えておきたい。

栃沢さん自身、長年自治体で福祉の仕事をしてきたが「専門家」と呼ばれることを好まない。それでも、いつの間にか参加した人が悩みを打ち明けている、そんな存在が増えたら、今ある貧困問題の一部は改善に向かうのかもしれない。

社会活動家・法政大学教授で長年、貧困問題に取り組んできた湯浅誠さんは、こども食堂を次のように評価する。

「こども食堂のいちばん大きな意義は、新しい支援者を掘り起こしたこと、だと思います。子どもの貧困問題などに心を痛めつつ、でもこれまで動くキッカケのなかった地域の主婦層など「ふつうの人たち」が、行動し始めました。日本の貧困問題を改善・解決に導く力になるのでは、と期待しています」

本当に支援を必要とする人が「貧困家庭」のレッテル貼りをされることなく足を運べる場所が地域に存在すること。ぎりぎりまで追い込まれる前に、そこで悩みや気にかかることを話せること。地域がそういう人に配慮しつつ自然に受け止め、必要な支援につながること。そうなれば「こども食堂」は困窮を未然に防ぐセーフティネットになるだろう。

治部 れんげ ジャーナリスト

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じぶ れんげ / Renge Jibu

東京工業大学リベラルアーツ研究教育院准教授。日経BP社、ミシガン大学フルブライト客員研究員などを経て2021年4月より現職。内閣府男女共同参画計画実行・監視専門調査会委員、日本ユネスコ国内委員会委員、日本メディア学会ジェンダー研究部会長、など。一橋大学法学部卒、同大学経営学修士課程修了。著書に『稼ぐ妻 育てる夫』(勁草書房)、『炎上しない企業情報発信』(日本経済新聞出版社)、『「男女格差後進国」の衝撃』(小学館)、『ジェンダーで見るヒットドラマ―韓国、日本、アメリカ、欧州』(光文社)、『きめつけないで! 「女らしさ」「男らしさ」』1~3巻(汐文社)等。

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