その上、デフレから脱却すれば物価上昇率がプラスとなり、その分政府が支払う国債の利払い費も増加する。こうした歳出の増加を見越せば、消費増税を今先送りしても、気休めにしかならない。
わが国に残された選択肢は、いつまで消費税率の引上げを先送りするかではなく、必要な税収をどの税で取るのが日本経済にとって負荷が少なくて済むか、である。この点では、経済学の知見が生かせる。法人税は、グローバル化の中で日本企業は厳しい国際競争にさらされ、アジア諸国の税率が25%前後であることから、減税こそあれ増税することは自縄自縛となる。日本企業に高い法人税率を課せば、日本での営業を縮小させ、日本での雇用を減らしかねない。
所得税増税では世代間格差が拡大
所得税は、格差を是正する機能を強化することは必要だが、増加する社会保障財源を追加的に賄うための主たる税源にはなり得ない。わが国の所得税は、基本的に給与所得を稼ぐ現役世代に負担が集中し、高齢世代に負担はほとんど及ばない。こうした所得税を増税して財源を賄うこととすれば、若年世代ばかりが負担増となり、受益と負担の世代間格差は、ますます拡大する。所得税は、世代内の所得格差是正には役立つが、世代間格差の是正には役立たない。だから、所得税だけでどしどし負担増を求めることは、稼ぎ手の若年層ばかりに負担増を求め、日本経済の成長源に過度な負担を求めることとなり、望ましくない。
相続税を増税すればよいとの声もある。しかし、相続税は今得ている税収でも、消費税率の1%分にも満たない。こうした相続税を倍増するような増税を考えれば、大金持ちだけでなく、普通の暮らしをする持ち家を持つ人にまで負担増を求めなければ、実現できない。しかも、それでいて、今の税収を倍増して得られる追加的な税収は消費税率の1%分にも満たない。これでは、増大する社会保障費をとても賄えない。
そうなると、経済成長と財政健全化を両立させる税は、消費税しかないし、消費税こそがふさわしい税である。消費税は、税収が景況の影響を受けにくいから、景気の良し悪しに関係なく安定的な財源が必要な社会保障費を賄うのには適している。しかも、同じ税収を得るのに経済成長を最も落ち込ませない税は、消費課税である、と経済学の先行研究が示している。増税負担は最低限にとどめるべきなのはいうまでもないが、いくつかある基幹税のうち、経済成長をできるだけ落ち込ませないようにできる税は、所得税でも法人税でもなく、消費税である。その意味で、消費税は経済成長をより阻害しない税である。
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