巨人・電通が抱くO2Oの野望(上) iPhone使って仕掛ける新しい販促

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アップル社との関係性強化も、もう1つの背景にある。

「アップルに対して、どのような新しい価値を提供できるかがわれわれの課題としてあった。とはいえ、iPhone 端末はグローバルに管理されているので、できることは限られている。そこで検討した結果、着目したのがPassbookだった。

Passbookは、従来アナログであるクーポン、チケット、カードなどを、デジタルに置き換えるというアプローチだ。しかし、アップルが日本のリアル店舗と直接やり取りをすることは現実的にはできない。Passbookの仕組みも、一般企業が使うには少しレベルが高すぎる。そこで電通が間を取り持つ」と吉羽氏は言う。

iPhoneが読み取り機に

現在、電通は“PASSSS(パススス)”という、Passbook形式のクーポン・チケット・会員証などを発行・管理するためのシステムをクライアント企業に提供している。

PASSSSの読み取り画面

クライアント企業は、PASSSSを採用すれば、必要情報を入力するだけでPassbook対応のクーポンなどをウェブ上で簡単に発行することができる。クーポンの内容を後から更新、管理することもできる。発行枚数の上限や使用枚数の上限を設定することも可能だ。

一方、店舗側に対する配慮も必要だ。

専用機器を導入してもらうようなO2O施策では、店舗側に負担を強いることになり、普及の妨げとなりかねない。

そこでPASSSSでは、クーポンに表示されたQRコードを読み取るためのiOS端末向けアプリを店舗向けに提供することにした。読み取り用の専用端末を導入せずとも、iPhoneなどの端末がありさえすれば、各企業専用の読み取り端末になる。

消費者の提示するクーポンを店員がiPhoneなどで読み込むと、“消費者が店頭でクーポンを利用した”履歴を取得・蓄積できる。「オンラインとオフラインの行動履歴(トラック)をデジタルでつなげる」というO2Oが実現するのだ。

「誰がどの店舗で何のクーポンを何回使ったかを把握することは、今までのクーポン施策ではどこにもできなかった。それができるのがPASSSSの強み」と、電通デジタル・ビジネス局メディア企画部、澁川修一氏は話す。

電通の澁川修一氏

吉羽氏によると、クリック&モルタル時代は、何人の消費者が実際に店舗に訪れたかという効果測定は、ネットから印刷した紙のクーポンの枚数を数えないとわからなかった。

スマートフォンの画面を店頭で見せるだけのクーポンでは、来店の履歴も記録できない。それがPASSSSでは、クーポンなどを配布したうえ、いつ誰が実際にそのクーポンを使ったかまで把握できる。

広告と販促の領域が溶け始めている。そこに、電通は目をつけた。iPhoneを使ったサービスで販促の領域に入っていこうとしているのだ。
「オンラインとオフラインの行動履歴(トラック)をデジタルでつなげる」というO2O本来の領域にいち早く乗り出した格好。

さて次回は、単純なクーポンサービスにとどまらない電通のさらなる「野望」についてリポートする。

(撮影:今井康一)

松浦 由美子 ITアナリスト

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まつうら ゆみこ / Yumiko Matsuura

ITアナリスト。

ITエンジニアとして半導体ウェハ検査装置の開発や原子力・ETCなどのインフラ制御系システムの開発、大手印刷会社のIT技術センター部門でセキュリティ関連のサービスや画像情報データベース、地図情報サービスなどのWeb開発に携わる。現在は、「ITからリアル世界への翻訳者」として、テクニカルな話題を一般読者にわかりやすく解説することをモットーに活動中。

著書に『O2O 新・消費革命 ネットで客を店舗へ引きつける』(東洋経済新報社、 2012.10)、『O2O、ビッグデータでお客を呼び込め!- ネットとリアル店舗連携の最前線』(平凡社新書、2014.1)、東洋経済オンラインにて「O2O ビジネス最前線」を連載中。

テレビのニュース番組やラジオ、講演など「O2O」に関する出演多数。
連絡先:松浦由美子公式ページ

 

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