iPhone5の発売日と同時に、複数の大手企業向けにPassbookキャンペーンを展開するーー。この電光石火の“離れ業”を仕掛けたのが、国内最大の広告代理店、電通だ。
「準備期間は、ほんの1カ月程度だった。短期間にもかかわらず、大手クライアントが付き、システムがきちんと稼働した。メディアも組み込むことができた。システムは、ベンチャー企業と連携、そこのリソース、メンバーを一気に集中投下して作り上げた」。
電通デジタル・ビジネス局メディア企画部でアート・ディレクターを務める吉羽一高氏は、立ち上げ時を振り返り、胸を張る。
テレビCMなどの大手マス広告を手掛ける巨人、電通のイメージからは想像できない機動力だ。
吉羽氏は、いち早くPassbookに取り組んだ背景をO2Oの観点からこう話す。
「昔、オンラインからオフラインへ誘客する“クリック&モルタル”という言葉が注目され、浸透し、現在は使われなくなった。ここにきて、スマートフォンの普及に伴い、“O2O”という言葉が出てきた。オンラインとオフラインの“行動履歴(トラック)をデジタルでつなげる”ことが可能になってきたために、注目されている」
これまでのオンライン(ネット)のデータに加え、オフライン(リアル)のデータも収集・活用し、両者がつながる世界になる。ここがクリック&モルタル時代にはなかったO2Oのポイントだと、吉羽氏は指摘する。
「今後、紙のクーポンはデジタルのクーポンに置き換えられる。O2Oの流れは、さらに広がっていくだろう。当たり前の世界になったときに始めたのでは遅い。黎明期のときから、マーケティングやシステムを積み上げて取り組んできた企業が、この市場で勝ち残る。早めにアプローチをして、取り組む企業じゃないとおそらく勝てない」(吉羽氏)。
とはいえ、なぜ広告代理店である電通が、Passbookのようなクーポンといった販促サービスに乗り出す必要があるのだろうか。
溶ける広告と販促の境目
背景には、デジタル化の波による広告業界の構造変化がある。
「デジタル化の進行、浸透に伴って、広告と販促の領域があいまいになってきている。クライアント企業で、広告と販促の予算配分の最適化が行われる。デジタル化が進むと広告費が販促費に食われていってしまう。
電通としても、広告だけでなく、販促も含めて解決策を提供する。そうすることで、販促領域に対して、広告的なアプローチを仕掛けるチャンスが作り出せる」と吉羽氏。
なるほど、Passbookの取り組みは、広告代理店として攻めの姿勢もあるが、守りとして販促領域へ進攻するという側面もあるわけだ。
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