理解が追いつかない「発達障害」と生きる 医師も親も迷っている
自閉症はいま「発達障害」の1つに括られている。発達障害と総称される診断名や症状の範囲は、ことのほか広い。2005年に施行された「発達障害者支援法」では、「自閉症、アスペルガー症候群その他の広汎性発達障害、学習障害、注意欠陥多動性障害、その他これに類する脳機能の障害であって、その症状が通常低年齢において発現するもの」と定義された。最近は言葉を円滑に話せないチック障害の一部や吃音(きつおん)なども、発達障害に括られている。
だが、発達障害という言葉の「共通の理解」は無きに等しい。自閉症やアスペルガー症候群など「自閉症スペクトラム障害」は、円滑なコミュニケーションが難しいことなどが特徴だが、おしゃべりな子がいたり、知的レベルが人並み、あるいはそれ以上の場合もあることは知らない人もいる。聞きかじりで「学習障害」のみを思い浮かべたり、「注意欠陥・多動性障害」(ADHD)に見られる片付けの苦手さ、立ち歩きなどの特徴を連想したりする人も少なくない。
これほど違うのに、なぜ新たに「発達障害」という名称でこれらをひと括りにするのか? ひと括りにすることで個々の障害の境界がぼやけ、誤解や混乱も生んだという指摘もある。日詰正文・厚生労働省発達障害対策専門官は、こう解説した。
「普通の育児ではうまくいかず親が困っていたり、本人がみんなと同じようにやっているのにうまくいかず困っていたり。そんな当事者たちの困り事に対する適切な対応の『コツ』が、世界中の学者や支援者が開発したノウハウから日々わかってきています。さまざまなコツが発達障害というキーワードで見つかりますよ、コツを知れば今よりも楽になるかもしれないですよ。そんなメッセージを発信するために発達障害というゆるやかなゾーンが設けられたのです」
日詰さんは、「メタボリックシンドローム(メタボ)」同様、意識喚起の用語なのだと付け加えた。もっとも、メタボと発達障害とでは大きな違いがある。メタボは内臓脂肪を減らすことにより解消できる。それに対し、発達障害は、脳機能の発達が関係する生まれつきの障害であり、根本的に治るものではない。
話しかけに一切無視
発達の過程で明らかになるため、生まれてすぐに診断できるわけではない。問診や行動観察などから診断するが、判定が難しい。グレーゾーンが多く、専門家であっても判断がつきにくいのが発達障害の難しいところだ。
乳幼児健診などで発達障害の可能性がある子を拾い上げるスクリーニングも全国の自治体で実施されているが、発見できる割合は自治体ごとにバラツキがある。保健師らの勘や経験のみに頼っている現場もある。