師匠・押井守とは違うアニメを創る 神山健治が描く「アニメ界の未来」(上)

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石ノ森作品というのは、悪の組織にさらわれて、改造されて、でも運よく心だけは明け渡さずにその悪の組織と戦っていくというものが多い。悪に取り込まれて改造されてしまったことを周りの人には言えない主人公は、やがて誰に褒められるわけでもなく、その使命を背負って戦うことになる。「サイボーグ009」などはまさに象徴的なんですが、なぜ戦わなければならないのか、ということに苦悩する。しかし彼らはそれでも人類の平和のために戦うわけです。

脚本を書いていて、僕らにとってそれは、理屈というよりは道徳観みたいに刷り込まれていたことなんだと気付いたんです。それが自分の中に当たり前のようにあるのであれば、今の時代におけるヒーロー像、正義のありようというものをこの作品で問うてみたいと思ったわけです。

しかも石ノ森先生が未完のまま終えた「天使編」を題材にしているが、「神とは何か」という命題は、材料としてはすごく面白いものだと思うんです。愚かなる人類に神が鉄槌を食らわそうとしているのではないかという、黙示録のようなテーマ。

それは石ノ森先生でさえ描きかけたまま終えることはできなかったものです。作り手としてはそのハードルはあまりにも高い。でもだからこそ挑戦してみたいという思いがありました。石ノ森先生の作品を借りて「お前ごときがそんなことをやるな」という人もいると思いますが、それでもやはり作り手としては挑戦してみたかったんです。

――次回作の構想は?

映画の企画って本当に運とタイミングなんです。結局はいろんな要素が合致しないと実現しないんで、本当に映画って難しいなといつも思うんですけど。ただ、今でもお話はいただいているんで、この熱が冷めないうちにどんどん作りたい。

しかしもっと言えば、作品以上にスタッフを育てることが重要なんです。僕1人では2~3年に1本しか作品を作れませんが、同じ技術を持つ人が増えれば毎年のように作品が生まれるかもしれない。そうすればスタッフも充実していく。それが僕の理想ですね。

――これまで世界観のしっかりしたドラマを数多く手がけてこられた神山監督ですが、コメディーや学園ものといったような、これまでとは違うジャンルに挑戦したいという気持ちは?

コメディーをアニメでやるのは本当に難しいんですよ。正直、今の僕には自信はないです。ただいつかは、ミサイルが飛んできて、世界が滅亡しそうなアニメとは違ったものを作りたいとは思っていますが(笑)。
  (撮影:梅谷秀司)

009 RE:CYBORG
2012年10月27日(土)全国ロードショー
(C) 2012『009 RE:CYBORG』製作委員会
上映時間:103分
公式HP:http://www.ph9.jp/

壬生 智裕 映画ライター

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みぶ ともひろ / Tomohiro Mibu

福岡県生まれ、東京育ちの映画ライター。映像制作会社で映画、Vシネマ、CMなどの撮影現場に従事したのち、フリーランスの映画ライターに転向。近年は年間400本以上のイベント、インタビュー取材などに駆け回る毎日で、とくに国内映画祭、映画館などがライフワーク。ライターのほかに編集者としても活動しており、映画祭パンフレット、3D撮影現場のヒアリング本、フィルムアーカイブなどの書籍も手がける。

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