トヨタ「4割減益」で試される"攻めの意志" 見栄えは度外視、研究開発費は過去最高へ

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もう一つのキーワードがトヨタの「意志」だ。2014年3月期の決算発表では、「意志ある踊り場」というキーワードを披露。これは目先の台数や収益の成長を追うのではなく、将来を見据えた足場固めを最優先する、というメッセージだった。

昨年の2015年3月期の決算発表の場では「実行の段階に入った」と公言。実際にメキシコ工場の決断、自動車の作り方改革TNGAの加速、米国内での本社移転、人工知能の新会社の設立などを次々と実行していった。

逆風下でも研究開発費、設備投資を増加

そして今期。豊田社長は「今期を一言で申せば、私たちの意志が本物かどうか試される年」と宣言した。その言葉通り、為替だけで9000億円を越える減益要因があるにもかかわらず、2017年3月期に研究開発費は過去最高額となる1兆0800億円、設備投資も前期より575億円増の1兆3500億円を投じる。

業績の見栄えを少しでも良くしようと思えばブレーキを踏む、人工知能など短期的には利益を生まない研究開発を削るといった選択肢もあったはずだ。しかし、それをトヨタはしない。大幅減益の予想は「逆風下でも攻める」という豊田社長の“意志”表示なのだ。

この選択が正しいかどうか、現状はわからない。投資が実れば、果敢な判断は後に賞賛されるに違いない。空振りに終われば、ブレーキを踏み遅れたと批判を浴びることだろう。

最高益を更新してきた中で社内の緊張感は薄れている。将来に必要な投資という名目で無駄な出費が増えている懸念もある。無駄は削りつつ必要な投資は果敢に実行する。しかも結果につなげていく。豊田社長の言う通り、真の実力と意志が試されるのはまさにこれからだ。

(撮影:尾形文繁)

山田 雄大 東洋経済 コラムニスト

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やまだ たけひろ / Takehiro Yamada

1971年生まれ。1994年、上智大学経済学部卒、東洋経済新報社入社。『週刊東洋経済』編集部に在籍したこともあるが、記者生活の大半は業界担当の現場記者。情報通信やインターネット、電機、自動車、鉄鋼業界などを担当。日本証券アナリスト協会検定会員。2006年には同期の山田雄一郎記者との共著『トリックスター 「村上ファンド」4444億円の闇』(東洋経済新報社)を著す。社内に山田姓が多いため「たけひろ」ではなく「ゆうだい」と呼ばれる。

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