三菱自動車の元下請け社員が見た異質な風土 一流自動車メーカーとは比べるべくもない

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東京・田町にある三菱自動車本社(撮影:今井 康一)

軽自動車4車種などの燃費データ不正問題に揺れる三菱自動車。2000年、2004年に大規模なリコール隠しが相次いで発覚したにもかかわらずの不祥事であり、周囲を欺く隠蔽体質がまるで変わっていないことを露呈した。

筆者はある自動車部品メーカーの営業社員として、1990年代後半から約10年間にわたって三菱自動車との取引の担当窓口を務めていたことがある。今回の燃費データ不正問題の原因はさまざまあるだろうが、以前から三菱自動車が日本の自動車メーカーの中において異質な存在だったことは、筆者のような下請け部品メーカー社員の立場からも見て取れた。

あれはダイムラークライスラー(当時)から経営支援の打ち切りを通告され、三菱グループ主導の再建に移るとともに、2000年に続く大規模なリコール隠しや「ヤミ改修」の発覚などを受けて、三菱自動車の新車販売が激減していた2005~2006年ごろだと記憶している。

「これ以上応じがたい」値下げ要求の果てに

当時、筆者は三菱自動車の購買担当者と年2回交わされる部品納入の契約交渉に臨んでいた。三菱自動車に限らないが、自動車メーカーと部品メーカーの間でこうした契約交渉が行われる場合、最大の焦点になるのはすでに納めている部品の契約単価見直し、つまり値下げだ。

一般的に自動車メーカーは部品メーカーごとに取引している部品の番号別に現行の単価と翌期の発注予測数、発注予測額が書かれた資料に「発注予測額の○%の合理化目標」と書いて部品メーカーに提示する。部品メーカーは合理化目標に対し検討を行い、値引き後の単価を記入して自動車メーカーに回答する。

部品メーカー側からすると、ここが交渉力の見せ所でなるべく合理化の幅、つまり値下げが小さくなるように努力する。そうはいっても、最終的には値引きした単価を書いて提出するのが業界の暗黙のルールでもあった。

一方、リコール隠しの再発覚後、三菱自動車の生産台数はどんどん落ちていっており、当時の値下げ要求は筆者が在籍していた部品メーカーとしては、とても受け入れがたかった。筆者は上司である事業責任者にも同行してもらい、何度も三菱自動車の購買責任者と交渉を重ねた。

そして最終的には単価を値引きするのではなく、ある月の取引額の中から一定金額を差し引くという条件での決着となった。たとえば一律1000万円、といった具合にだ。このやり方は値引きの総額が三菱自動車側と決着しない場合の妥協策だが、値引き総額を引き下げてもらう代わりに、単月に1発で三菱自動車に支払うことになった。

部品単価を引き下げる場合は、値引き効果が毎月少しずつ積み上がるものの、この場合は三菱自動車側は短期間で多額のコストダウンになり、文字通り部品メーカーが支払う「一時金」となる。筆者の勤務していた部品メーカー側からすると部品単価は据え置きとなるものの、単月でみると損益が大きく悪化した。この案件は部品メーカー側の役員決裁で処理した。

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