職場で「自殺者」が出たらどう対応するべきか

遺された人の心理的ショックを和らげる方法

B氏は強烈な心理的打撃を受けた。「どうして相談してくれなかったのだろう」「自分の言い方が良くなかったのか」と自責の念にかられる日々。周囲は「B氏がAさんを殺した」とうわさしている気がする。ついにB氏は自宅から外に出られなくなり、専門的な精神科治療を受けることとなった。職場にはその後も相次いで休職者が出るようになってしまった。

こうした事態を防ぐためには、どのような対処をしたらよいのだろう。それには職場における自殺のポストベンション(postvention)が速やかに行われることが必要だ。

ポストベンションとは、誰のせい、何が悪かったと、犯人探しをするものではない。不幸にして自殺が生じてしまった場合に、遺された人々に及ぼす心理的影響を可能な限り少なくするためのケア対策のことで、具体的には自殺についての正確な情報をメンバーに伝え、心理的な危機についての情報を提供し、必要に応じてメンタルサポートを実施することだ。

組織の誠実さが問われる大切な局面

ここでのリーダーは、問題への客観性や守秘義務を遵守できる精神保健の専門家が中心となってケアを進めることが望ましいとされている。組織の中で信頼のおける人物が実施することで「職場に守られている感」が強まる、との声も聞かれる。

では何をどのように行うのか、ポストベンションの原則を挙げてみよう。

少人数の集まりを作る

まずは少人数のグループで働きかけを進めよう。たとえば学校で自殺が起きたとき、生徒は体育館に集められて「命の大切さ」についての講話を聞く、という場面を想像する人がいるかもしれない。しかしこれでは一人ひとりの反応を把握することができず、喪の作業も進まずかえって混乱をきたす。ケアを行き届かせるためには多くても10人までの集まりとしたい。

自殺についての事実を中立的な立場で整理し、伝える

ケアのリーダーは自殺の事実関係を整理し、できるだけ早い時期に、そのグループの中で伝える。自殺はそれ自体を公にしにくい雰囲気があるため、事実を隠そうとする管理者もいるだろう。しかし必死に隠そうとしても、まず間違いなく、あっという間に全員に知れわたる。隠そうとすればするほど罪悪感や怒りの感情が長引き、職場全体に悪影響を及ぼしかねない。

事実を伝える際には淡々と話すことが大切だ。その際、自殺者を決して非難・中傷してはいけない。「彼はよく弱音を吐いていた」と表現することで、「この組織は冷たい」と取られかねない。逆に自殺者の生前の姿を意図的に美化することも避けたい。遺された人々は、組織の誠実さに極めて敏感になっている。

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