がんの血液検査には「有害無益」な項目がある 「早期発見」の声に流されず、賢い選択を!

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しかし、早期がんをたくさん見つけても、死亡する人が減らなければ、見せかけの「早期発見・早期治療」すなわち「過剰診断・過剰治療」を行っていることになり、これは不利益である。早期発見したつもりでも根治できない場合もある。

子宮頸がん検診や大腸がん検診のように、真の「早期発見・早期治療」で多くの命を救っていると考えられているものから、PSA検診のように、一部の命を救っているとしても、「過剰診断・過剰治療」が多いもの、さらには、命を救える根拠が皆無なものまで、検診の意義はバラバラである。

なんでも「早期発見・早期治療」が大切だと叫ぶのではなく、それぞれの検診について、受けるべきかどうかを、データに基づいてきちんと議論するべきなのだ。

そうした議論が社会全体で盛り上がれば、一人ひとりが、がん検診を「自分の問題」として考え、納得した選択ができるようになり、結果として、本当に必要ながん検診の受診率も上がるはずである。いずれにしても、個別の検診の利益と不利益を伝えずに「早期発見・早期治療」のスローガンを連呼しても、何の意味も、説得力もない。

たかが血液検査、されど...

私のアドバイスをまとめると、「健康診断では、CEAやCA19-9などの腫瘍マーカー検査は受けない方がよい」「PSA検診は受ける意義が僅かにあるかもしれないが、受けることの不利益を理解した上で慎重に判断すべき」となる。

検査を受けるのが「絶対によい」とか「絶対にダメ」と言いたいのではない。むしろ、強調したいのは、検査の意味、すなわち、検査によって得られる利益と、それに伴う不利益をきちんと知り、そのバランスを考えて、自分自身で納得した選択をすべきだということだ。

たかが血液検査と侮るなかれ。検査一つで人生が変わることもありうるのだ。前回論じた抗がん剤の是非と同様、一つの検査についても、科学的データや、一人ひとりの価値観に基づいて、リスクとベネフィットのバランスを考えることが重要である。

高野 利実 虎の門病院臨床腫瘍科部長

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たかの としみ / Toshimi Takano

1972年東京都生まれ。1998年、東京大学医学部卒業。東京大学医学部附属病院内科および放射線科で研修。2000年より東京共済病院呼吸器科、2002年より国立がんセンター中央病院内科レジデント。2005年に東京共済病院に戻り、「腫瘍内科」を開設。2008年、帝京大学医学部附属病院腫瘍内科開設に伴い講師として赴任。2010年、虎の門病院臨床腫瘍科に最年少部長として赴任し、3カ所目の「腫瘍内科」を立ち上げた。

「日本一の腫瘍内科をつくる」ことを目標に、乳癌・消化器癌・泌尿器癌・肺癌など悪性腫瘍一般の薬物療法と緩和ケアに取り組んでいる。また、日本臨床腫瘍学会(JSMO)がん薬物療法専門医部会長として、日本における腫瘍内科の普及と発展を目指しているほか、西日本がん研究機構(WJOG)乳腺委員会委員長として、乳癌に関する全国規模の臨床試験に取り組んでいる。著書に「がんとともに、自分らしく生きる―希望をもって、がんと向き合う『HBM』のすすめ―」(きずな出版)がある

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