がんの血液検査には「有害無益」な項目がある 「早期発見」の声に流されず、賢い選択を!

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腫瘍マーカーが正常であったとしても、がんが存在していない根拠にはならず、それだけで安心してしまうのは、正しい理解とは言えない。

一方で、がんがない健康な人でも、一定の割合で腫瘍マーカーが上昇することが知られている(「偽陽性」と言う)。そういう人が健康診断で腫瘍マーカーを測ってしまうと、そこから悲劇が始まる。

実際、「健診で腫瘍マーカーが高いので精密検査を受けるように言われました」といって、病院にやってくる人は、かなりの数にのぼる。

血液検査で異常があり、「体のどこかにがんができている可能性がある」と言われる不安は、相当なものだ。不安を解消するために、CT検査、PET検査、上部消化管内視鏡検査(胃カメラ)、大腸内視鏡検査などで、全身をくまなく検査する羽目になる。

その結果、明らかな病気が見つからなければ、医師から、「検査の結果、がんは見つかりませんでしたので、腫瘍マーカーが高かったのは『偽陽性』だったと考えられます。よかったですね。どうぞ安心してください」と説明を受ける。

心の「後遺症」は深い

虎の門病院での説明風景 (高野氏提供)

しかし、一度「がんの疑いがある」と言われた不安は簡単には消えない。体のどこかにがんが潜んでいるかもしれないという疑念は完全には拭い切れず、精神的な「後遺症」が残ることが多い。

「あの日以来、気持ちが晴れることはなく、悶々と過ごしています。一生、腫瘍マーカーの呪縛から解かれることはなさそうです」と言って、私の外来に通い続けている「患者さん」もいる(実際に病気ではないので、「患者」ではないのだが....)。

本来は不要だった数々の検査を受け、本来味わう必要のなかった不安に苛まれている方々を目の当たりにしていると、人間の幸せのためにあるべき医療が、逆に人間を傷つけている現実に愕然とする。

検査というと、何でも受けた方がよさそうに思いがちだが、検査によって、このような不利益が起きうることを理解した上で、その不利益を上回るだけの意義のある項目に限って検査を受けるべきなのだ。

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