技術革新でチェス業界に起きた「逆転」現象
特殊だが、教訓に富む例はプロのチェス界にある。70~80年代、コンピュータのチェスの腕前が人間を超えると多くのチェスプレーヤーは用済みになるとおそれていた。
そしてついに97年、IBMの「ディープ・ブルー」が、チェス世界チャンピオンのガルリ・カスパロフを短い試合で破った。すると、チェスのスポンサー企業は、こぞって人間同士のチャンピオン戦主催のために何百万ドルも支払うことためらい始めたのである。
実際、トッププレーヤーの数名は現在も非常によい暮らしをしているものの、ピーク時ほどではない。二番手グループのプレーヤーたちがトーナメントや公開試合で稼ぐ金額も、70年代と比較して実質ベースで大きく減少している。
一方で興味深いことも起きている。今日、プロのチェスプレーヤーとして生計を立てている人の数は過去最多となった。コンピュータとオンラインで試合ができるようになったことで、多くの国の若者の間でチェスがブームになったのである。
一方、学校でチェスを教えることを法制化したのは、アルメニアやモルドバなど数カ国程度にすぎない。そこで、代わりに何千人ものチェスプレーヤーが子どもたちにチェスを教えることで、驚くほどよい収入を得るようになった。「ディープ・ブルー」以前に、プロとして生計が立てられたのは数百人程度だ。
たとえば、米国の多くの都市では優秀なチェスの講師は1時間に100~150ドル以上も稼ぐ。昨日まで失業していたプレーヤーがその気で働けば、数十万ドルの年収を稼ぐことができるのだ。これは技術が収入格差の是正に貢献できる可能性を示す一例だ。二番手グループでも、優秀な講師ならばトーナメントのトッププレーヤー並みかそれ以上に稼げる。
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