作業がはかどる「朝の30分」こそムダ話に使え 「仕事だけの組織では、仕事が行き詰まる」
井手氏は、このチームビルディング・プログラムを、会社に帰ってそのまま一部社員に実施した。
「もちろん、当社で実施したときも、雰囲気は悪くなりました。しかし、ミッションを達成するためには、元気づけ合って、協力していくしかない。また、お互いの個性を理解しあう必要もあります。たとえば作戦を考えるのが得意な人、みんなを明るくするのが得意な人など、役割分担を決め、全員が次にどうするか話し合って、合意しながら進んでいくしかないんです。そして、全員が息を合わせれば、難しいミッションも達成できるとわかると、皆が楽しくなってくる。ポイントは、個性の相互理解と、一体感だったんです。その後、最初にチームビルディング・プログラムを受講した面々は、何か発案すると『じゃあ、あの調子でやってみよう!』と自ら動く集団になっていきました」
朝礼で仕事の話なんかしなくていい
その後、井手氏は、相互理解と一体感を深めるための施策を次々打っていった。最初の施策は「ムダ話をすること」。その場は朝礼だった。
「チームビルディング・プログラムに参加したあと、思い切って『朝礼では仕事の話なんかしなくていいよ』と言いました。もちろん皆から『じゃあ何のために朝礼をやるんだ』と大ブーイングを喰らいましたよ」
仕事がはかどる朝の20~30分をムダ話に使うと決めたのだ。理由はただひとつ。お互いが個性を知り、信頼関係を築くためだ。仕事は、頼み事やミスのフォローなど、お互いの価値観のズレを補う作業の連続だ。人間関係ができていなければ「こんなことできない」「私はやらない」といった雰囲気が蔓延するに決まっている。
「その後、チームビルディング・プログラムに出てくれたメンバーは、心を開いて『昨日、うちで飼っている猫が~』なんて話をしてくれるようになりました。でも、ほかの社員は、わざわざ私に『1週間に一度でよくないですか?』『ムダだからやめてください』と言いにきましたよ」
井手氏は、ひとりひとりに朝礼の意味を説明した。
「自分の思いをかみ砕き『仕事だけうまくやろうという組織にしようと思うと、結局、その仕事がうまくいかないんです』などと話しました。一方的に『ウチの朝礼はこうだ』と話し、合意できないまま押しつけても、心の中でわだかまりが残るだけですから」
次第に興味深い現象が現われた。井手氏の思いは、波紋のような同心円を描き広がっていったのだ。朝礼で積極的に発言する社員たちが、他の社員に「もっと話そうよ」と声をかけ始めた。
「私も『絶対否定はしないよ』と言い続けました。誰だって、否定されて、嫌な思いをするのが怖いんです。そして、みんなが心を開いてくれるのを待ったのです。すると、次第に朝礼が盛り上がるようになってきました」
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