セイコーが世界初の自己完結型ソーラーGPS時計を発売

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セイコーが世界初の自己完結型ソーラーGPS時計を発売

セイコーホールディングス傘下の時計販売会社セイコーウォッチは、外部充電のいらない世界初の自己完結型ソーラーGPS時計「セイコーアストロン」(以下、アストロン)を、9月27日から世界14カ国で同時に発売した。価格は15.2万円から21万円で、年内に50カ国以上での展開を目指す。来2014年3月期には数万個の販売を見込んでいる。

「アストロン」は上空2万キロメートルに存在する約30機のGPS(全地球測位システム)衛星からさまざまな情報を受信して、全世界どこにいても正確な時刻を表示できる機能を備えている。GPS衛星は原子力時計を積んでおり、位置情報だけでなく、時刻(グリニッジ標準時)も発信している。

「アストロン」は4機以上のGPS衛星から位置情報を受信し、現在地を割り出し、同時に受信したグリニッジ標準時を39ある世界のタイムゾーンのなかから現地時刻を選ぶことで、世界のどこにいても、正確な時刻を表できるタイムゾーン修正機能を備えている。現在、セイコーが主力とする電波時計は、日本、米国、中国、欧州など電波塔が存在する一部の地域の時刻修正機能にとどまっており、全世界をカバーしていなかった。開発に当たってはセイコーエプソンが協力した。

GPS衛星の機能は携帯電話やカーナビなどさまざまな端末で利用されている。ただ位置情報や時刻情報の受信に大きな電力量が必要だった。今回セイコーは構想から約10年をかけてGPSの受信機構を腕時計のサイズまで小型化、なおかつ文字盤に存在するソーラーパネルで十分GPS機能を稼働させられるようなアンテナを設計するなど、徹底的な省電力化を実現。こうした技術について、ウォッチとしては最多レベルとなる100個以上の特許を申請中という。

「アストロン」という名前は1969年にセイコーが世界で初めて実用化したクォーツ型時計につけられた、同社にとっては象徴的な名前。今回はクォーツに次ぐ第2の革命という意味と、上空2万キロメートルから受信するという2つの意味をこめた。9月26日に、グループが所有する銀座「和光」の時計台で会見した服部真二・セイコーホールディングス会長兼CEO(10月1日より。当時社長)は「世界の時計史に残ると確信している」と意気込みを語った。

今回の「アストロン」は先進国を皮切りに、全世界へ投入する戦略モデル。現在は15万円程度と中価格帯としては高めの価格設定になっているが、「10万円程度の新モデルを早期に投入し、デファクトスタンダードにしたい」と服部会長は話す。中価格帯の主力商品に据え、海外展開に弾みをつける狙いだ。

現在、セイコーは国内では高いシェアを誇っているが、競合のシチズン時計(シチズンホールディングス)やカシオ計算機に比べ海外展開では後れを取っている。また高価格帯では「グランドセイコー」「クレドール」といった強力なブランドを持つものの、5万~15万円の中価格帯では強力なブランドを構築できていなかった。そのため、会社が「アストロン」にかける期待は大きい。

一方で、市場規模の大きい先進国は電波時計で十分カバーされているため、競合する他社では「世界のどこでも1秒のズレのない時計はどこまでニーズがあるのか」(国内大手時計メーカー)と首をひねる向きもある。はたして、セイコーがクォーツに続き、第2の革命と掲げるGPSウォッチは普及するのかが注目される。

(松浦 大 =東洋経済オンライン)

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