「ソニー、東芝との提携は必然。世界トップを奪還するためだ」−−シャープ社長 片山幹雄

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成長の牽引役は液晶だけじゃない

--堺プロジェクトのもう一つの柱が、同じ敷地内に造る薄膜太陽電池の新工場です。現在、世の中の太陽電池のほとんどは結晶系ですが、シャープはあえて新技術の薄膜太陽電池の巨大工場を造ると。確かな勝算はあるんですか。

そんな工場造って大丈夫かと。そもそも、薄膜太陽電池は結晶系の太陽電池よりも変換効率が低くて、コストも高いといわれているのに、シャープは何を考えてるんだと。皆さんはそうおっしゃいますよね。でも、私に言わせたら甘いなと(笑)。

確かに、太陽電池メーカーの投資金額だけを考えたら、結晶系のほうが投資負担は小さいですよ。生産能力で1ギガワット(=日本の一般家庭25万世帯分に相当)の太陽電池工場を造るなら、薄膜だと1000億円以上、結晶系なら半分の数百億円で済むでしょうね。しかし、結晶系は原材料のシリコンウエハを作るまでの段階でべらぼうな投資が必要で、専門の業者さんがそれだけの大きな投資をされている。しかも、バリューチェーンを考えると、シリコンの段階に半分以上の付加価値がある。つまり、太陽電池メーカーはその高いシリコンを大量に使って、結晶系の太陽電池を作っているわけですよ。

一方、薄膜はシリコンの使用量が結晶系の100分の1で済むうえ、原材料の工程から最終製品ができるまでの生産プロセスも半分以下。ですから、薄膜の太陽電池は結晶系よりも理論的に安く作れるんです。

--ただし、それは数多くの技術的な課題をクリアできたら、という条件付きですよね。

おっしゃるとおりで、ちゃんと作れたらの話。技術という点で言うと、薄膜は結晶系よりも格段に難しい。変換効率を上げるだけでも大変だし、変換効率が劣化しやすい問題もある。しかも、製造装置を作ること自体がとんでもなく難しい。しかし、当社は薄膜で高い変換効率が出せて、劣化もしない技術をすでに確立しています。自分で製造装置を作れる技術もある。そうした技術的な裏付けがあるから堺でやるんです。

--シャープはすでに葛城工場(奈良県)で薄膜太陽電池を少量生産していますが、現時点ではまだ結晶系よりも製造コストが高いのでは?

現時点ではそうです。しかし、堺の新工場には格段に進化させた製造装置を持ち込むんですよ。今は薄膜太陽電池を小さいガラス基板で作っているんですが、堺では今の3倍の面積のガラス基板を使うんです。液晶と同じでガラスサイズが大きくなれば、生産効率は飛躍的に上がる。堺では量産効果も出るので、薄膜太陽電池の製造コストは格段に下がります。今、結晶系太陽電池の発電コストは日本の一般家庭用電力料金の2倍くらい。堺の薄膜太陽電池工場によって、それを家庭用電力料金と同じレベルにまで下げたい。

--太陽電池でも海外企業の追い上げが激しく、シャープは昨年、生産量で世界首位の座を奪われました。薄膜太陽電池の本格展開がうまくいけば、競争環境は変わりますか。

大きく変わると思ってます。結晶系は市販の装置を買えば作れるし、欧州のフィードインタリフ(国の政策で、太陽電池による発電分を電力会社が高く買い取る制度)のおかげで、今はコストが高くても太陽電池のビジネスが成り立つんです。しかし、いずれはほかの産業と同様にコスト競争の勝負、そういうステージが必ずやってくる。そのときに誰が勝つかという話ですよ。

--となると、シャープの5年後、10年後の姿はがらりと変わる?

おそらく今、一般の方々が抱くシャープのイメージは、液晶の会社、液晶テレビの会社でしょう。もちろん液晶は今後も大きな柱であり続けますが、創業100周年に当たる2012年には、太陽電池を中心とした省エネ・創エネ事業を売上高の半分を占める大きな柱に育てたい。

将来を考えたら、産業規模としては、液晶よりも太陽電池のほうがはるかに大きくなりますよ。環境問題という世界的な課題に加えて、石油や石炭はいずれはなくなるんですから。今はまだ太陽発電は世界の総電力の1%にも満たないが、仮に10%になったとしても、とてつもない産業規模です。だから成長の牽引役は液晶だけじゃないんです。
(渡辺清治、中島順一郎 撮影:今井康一 =週刊東洋経済)

かたやま・みきお
1981年東京大学工学部卒業、シャープ入社。2003年取締役モバイル液晶事業本部長。05年に液晶事業を統括した後、06年にはテレビ用大型液晶とAV事業の統括責任者を兼務。07年4月より現職、50歳。

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