「偽善者でもいい!」伊那食品のブレない哲学

達人経営者が極めた掃除哲学と凡事継続

同社の仕事は装置産業で、シフト制(24時間体制の勤務シフト)にした方が絶対に得なのですが、健康に良くないとして、終日シフトを止めるよう決めました。また、寒天の仕事には水がつきものです。ゲル状の寒天を固まった乾物にするのですが、最初の状態では99%が水で、前かけをして毎日水浸しの作業です。身体も冷え切ってしまいます。それで「長靴よさようなら運動」を始めました。何年もかかりましたが機械化を進め、辛い水仕事から社員を開放。長靴を履かずに運動靴で仕事ができるようになりました。

会長が真剣に社員のことを考えているので、社員も会長を信頼し、会社を自分たちのものだと思うようになります。「伊那食ファミリー」です。早朝手当も無いのに、社員が自発的に始業30~40分前に来て掃除をするのは、この、お互いが「同志」という気持ちからです。信じられないことに、土曜、日曜も人知れず出てきて掃除をし、さっさと帰る社員が何十人もいるそうです。

偽善者でもいい、良いことをやろう

伊那食品本社の様子

掃除をすれば自分達だけでなく、来社した人も気持ちがいいものです。また、敷地内だけでなく公園も掃除をしている社員を見て、近隣の方が「あの会社、いいね」と言ってくれます。これが会社のイメージアップにつながります。学生たちの間でも人気が出て、募集30名のところ6000名の応募があったそうです。長野県では一番の応募者数だと言います。

セミナーでは、鍵山相談役との対談で、塚越会長からこんな話も出ました。

当社の東京営業所の前が公園でしたが、その公衆トイレが汚い。それで、社員皆で掃除をしていました。すると、役人が来て「失業者が出るから、やめてくれ」と言われました。それで自粛しましたが、雇われた業者の掃除では、やはりきれいにならない。そこで朝早く、誰にもわからないようにトイレ掃除をする社員が出てきたそうです。塚越会長は「いい話でしょ。黙ってやる社員が増えてきました」と嬉しそうに話されます。東京支店では、その後、公園の花壇の植栽などにも尽力し、渋谷区から表彰されました。

ただこうした会社の姿勢を、スタンドプレーではないか、売名行為だ、と言う人もいるそうです。でも、会長はこうつけ加えられました。

「偽善者であっても、動機がどうであっても、いいんです。良いことをやる人が偉いのであって、理屈ばっかり言って、草一本他人のためにむしらないような人はよくないんです」 

他人のために何かしたいけどエエカッコシィと思われるのでは、とつい躊躇してしまう人には、とても勇気づけられる言葉だと思います。

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