だが多くの企業は国やOBとのしがらみから、防衛産業からの撤退の決断を嫌う。そして次の代の経営陣に先送りしてきた。経営者としての当事者能力を疑われても仕方があるまい。
このようなやる気のない企業側の姿勢に防衛省側も愛想をつかし始めている。実際にある防衛省幹部は「やる気のない大手企業には何も期待していない。今後コストや品質で問題のある企業には退場してもらう」と述べている。
今年6月パリで開催される世界最大の陸戦兵器見本市、ユーロサトリの日本パビリオンに防衛省もブースを出すが、その際ブース内に中小企業5社のスタンドが出展される。その費用は一部、防衛省が負担する。「今後海外の見本市に大手の出展は期待しない。防衛省はやる気のある中小企業の支援に舵をきる」(前出)と断言する。
東芝は思い切った決断をできるか
東芝は昨年、長年にわたる不正経理と粉飾決算が発覚し、2016年3月期決算で7100億円の赤字を計上した。また東京地検が捜査に踏み切るとの観測もある。同社は、まさに存亡の危機にあると言っても良いだろう。
このため事業の再構築は不可欠であり、債務超過を回避するため、事業の売却を含めて3万4000人のリストラに踏み切る。売り上げもピークから3割減る。虎の子である東芝メディカルもキヤノンに売却することが決まった。さらに、冷蔵庫やテレビなど赤字が続く家電部門を中心に売却、テレビやパソコンの開発拠点がある青梅事業所を縮小し、早期退職の募集や他部門への移籍などを行う予定だ。
2014年度の防衛省中央調達の契約高ランキングで3位のNECは1013億円、5位の三菱電機は862億円、7位の富士通は527億円である。対して東芝は8位で467億円に過ぎない。東芝の売り上げは4兆9000億円ほどあり、防衛部門の売り上げ比率は約0.95パーセントに過ぎない。
現状を考えれば、売り上げ比率が極めて小さく、低収益で将来性も見込めなく、国際市場で競争力もなく、本業とのシナジー効果も薄い防衛部門は他社に売却するなり、廃業するなりして撤退すべきだろう。
ましてや今回のように、不明瞭な理由で契約を解除され、巨額の費用を負担することが求められるリスクを勘案すれば、なおさらだろう。
防衛部門の売却を行った企業は過去存在する。日産は経営危機に陥った際に就任したカルロス・ゴーン社長の采配で、吸収したプリンス自動車からの遺産だったロケット事業をIHIに売却した。その後の同社の業績はV字回復した。
実は防衛省でも同じ分野で複数の企業が住み分けを行い、規模小さく、コスト高体質のメーカーが乱立する防衛産業の再編に乗り出す。この再編はまず弾薬部門から再編を進められる予定だが、東芝がかつての日産のように防衛部門を他社に譲渡するのであれば、防衛省はそれを支持する可能性が高い。そうなれば、防衛産業再編に一気に弾みがつくだろう。
問題は東芝に「カルロス・ゴーン」がいるか否かだろう。筆者にはいないように見えるが、経営陣が防衛産業からの撤退も決断できないようでは、東芝の再生への道は極めて険しくなると見て間違いない。
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