東芝、国から迫られた「賠償金12億円」の顛末 防衛事業をやり続ける必要があるのか

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また既に発注されたC-2の機体は製造が進んでいるが、開発が完了した際には既に進めた作業をやり直す必要があるだろう。筆者は齊藤治和前航空幕僚長にこの改修費用を国が負担するのか、それとも川崎重工が負担するのか記者会見で尋ねたが、明確な回答は得られなかった。空自はC-2対しては大変鷹揚であり、偵察ポッドとの扱いは大きく異なる。

つまり、防衛省が性能を不足にキャンセルしたり、開発費の払い戻しの要求、あるいは追加費用を誰が負担するのかに明確な基準があるようには思えない。

東芝としては青天の霹靂

東芝側は、過去の「慣習」どおり、性能や品質に多少の問題があっても天下りさえ受け入れれば、文句は出ないと高をくくっていたのだろう。実際にそのようにして問題ある兵器が多数調達され、現場はなんとか運用しているのが自衛隊の実態だ。だがこの件に関しては、何らかの理由で防衛省が東芝にカネを払いたくない理由があったのだろう。東芝にしてみれば青天の霹靂だ。

実際問題として空自の対処は不自然だ。東芝のものが不十分であるならば、輸入に調達を切り替えるべきだった。ところがその後何の手立ても講じられず、F-15Jを転用した偵察機のプロジェクトは事実上キャンセルされた。東芝への発注をキャンセルした後でも外国製の偵察ポッドを調達すればF-15Jの改修も無駄にならずに、新しい偵察機が導入できた。だが空自はそれをやらなかった。

仮に戦術偵察機が何らかの理由で不要となったのであれば、説明があってしかるべきだ。だが空自その理由を空自は説明していない。説明できないのであれば空自は本来必要なかったプロジェクトを立ち上げたと非難されても仕方あるまい。

恐らく新たに採用されたF-35Aのセンサー類が優れているので偵察任務も兼ねさせようというつもりかもしれないが、F-35Aは2個飛行隊しかなく、偵察任務も兼ねさせるのは負担が大きすぎるし、一定機数を偵察任務に割かれるならば戦闘機部隊として戦力が大きく削減される。しかもF-35Aが少なくとも1個飛行隊が戦力化されるまで、戦術偵察機は旧式なRF-4が使用されることとなるだろう。

RF-4の偵察はフィルム方式のカメラによるものであり、撮影後一旦基地に帰投し、フィルムを現像しなければならいない「前世紀の遺物」である。今や博物館アイテムであり、とても先進国の「空軍」の装備とはいえないシロモノだ。今日途上国ですらリアルタイムで情報を送る偵察ポッドを装備している。

また一部報道では新たに採用された大型偵察用無人機、グローバルホークに偵察任務を任せられるので、F-15の偵察型は必要ないと報じられているが、グローバルホークは戦略偵察機である。対してRF-4やRF-15Jは戦術的偵察機であり、全く使用目的や運用が異なる。このため任務の兼用は不可能だ。

今から20年以上も前の1995年に発生した阪神淡路大震災の折にも、リアルタイムで情報を送れないRF-4の旧式な偵察システムが批判された。そしてそれから16年後、5年前の東日本大震災でも、RF-4がリアルタイムで情報が送れず、同様の批判を受けている。

次ページ当初から輸入品にしておけばすでに運用している
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