新日石、出光の国内2強動く 激動の石油業界 元売りサバイバル

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新日石と九石の統合は九石側から話を持ちかけたものだが、新日石側は物流効率化などのメリットを享受できそうだ。新日石はグループ全体で全国7カ所に製油所を持つが九州にはない。九石の大分製油所は水深の深い別府湾に面しており、原油を満載した大型タンカーが入港できるのも魅力。石油化学製品の生産も行っており、「新日石の製油所と比べても競争力は高い」(大和総研の阿部聖史シニアアナリスト)という。

九石の良好な財務体質も縁組の決め手だ。石油元売り業界は高水準の有利子負債を抱えるが、安全性の目安となるデットエクイティ(DE)レシオ(負債÷自己資本)は、新日石の2・3倍に対して九石は1・9倍(07年3月期)。売り上げでは約9倍の開きがあるものの、「大手他社も凌駕する財務体質を備えている」(木原誠・九石社長)。

ただ、供給過剰状態の是正は喫緊の課題。新日石の固定資産も増加傾向にあり、非効率設備の削減は急務だ。新たな拠点を手に入れる一方で、「製油所のスクラップも視野に入っている」(西尾進路社長)。

出光に絶好の機会だがコスト増大のリスクも

これに対して、出光は経済成長著しいベトナムに活路を見いだした。首都のホーチミン市は縦横無尽に走り回るバイクであふれんばかり。ガソリン需要の急拡大を物語る光景だが、実は国内に製油所はなく全量を輸入で賄う状態だ。出光の天坊昭彦社長は「同国での製品販売は製油所建設にかかわった会社にだけ許可される」と販売拡大に意欲を見せる。

むろん、大型投資にはリスクが伴う。世界景気拡大や商品相場高騰などを背景に近年、資材価格が上昇。人手不足感も顕著で、プラント建設に要するコストは膨れ上がっている。インフレ率などを考慮したとしても、投資額が当初の600億円前後で収まるかは流動的だ。

かつて約2兆円の有利子負債に苦しんだ同社も、06年の上場などを通じて財務体質は急改善した。それでもDEレシオは07年3月期で3・2倍。相対的に脆弱さが残る点は否めない。製油所などの操業開始は13年末の予定。それまでの間に株式市場などで財務面のリスクがクローズアップされる可能性もある。

だが、みずほ証券の塩田英俊シニアアナリストは「またとないチャンス」と見る。石油精製はエレクトロニクス業界などに比べれば製品需要変動の波は小さく、日本のような供給過剰状態にないかぎりは、一定のマージンが確保できるビジネス。設備の陳腐化もすぐには進まない。利幅こそ薄いものの安定収益が見込める。つまり、「本来なら製油所建設への外資導入のインセンティブはさほど働かないはず」(塩田氏)で、その分、出光は絶好の機会を得た。

日本の市場縮小に手をこまぬいていては退路を断たれるだけだろう。国内の販売シェア拡大で価格交渉力を高める道を選択した新日石。リスク覚悟でベトナムに打って出る出光。両社の新たな一歩がライバルを刺激するのは想像に難くない。
(松崎泰弘 撮影:尾形文繁 =週刊東洋経済)

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