今は人生真っ暗でも必ずその次がある--『“司法試験流”勉強のセオリー』を書いた
伊藤真氏(伊藤塾塾長・弁護士)に聞く
──塾のモットーは「ゆっくり急げ」ですね。
勉強には、楽して何か一気に成果を上げる手はないと思ったほうがいい。地道な努力の積み重ねがいちばんの近道なのだ。それをラテン語を訳した「ゆっくり急げ」と教えている。急がば回れとは違う。慌てず焦らず積み上げていくのが、結局最短ルートになるということだ。基礎をきちんと積み重ね丁寧に繰り返していく。地道な努力の繰り返し。それを30年教えて、「ゆっくり急げ」だと実感している。
──この本では古典の『ソクラテスの弁明』がたびたび引用されます。
その古典の最後の部分で、ソクラテスが毒をあおるときに自分の教え子たちに「死んでいくが、死後の世界は怖くない」と言う。もし死後の世界があれば、先輩の哲学者に会って話ができて楽しいだろうし、もし死後の世界がないならば、何もないのだから怖いと感じることすらない。どちらでも怖くないと。
その一節から受験生時代に思いついたのが、試験の問題には2種類しかないこと。つまり、自分の知っている問題と知らない問題。当時、これは大発見と小躍りしたものだが、友人には何をばかなことを言っているのかとあきれられた。しかし、それまでは知っている問題の数を増やそうと、日本に存在する司法試験の問題は全部やったと自負していた。もちろんそうではなく、2種類の一方、知らない問題にどう対処していくか、それができていれば、パーフェクトに問題が解けていることになるわけだ。
プレゼンで考えれば、質問の想定問答集を作っても、それだけではダメということになる。想定外の質問にどう対応したらいいか、それを抜きには考えられない。想定外の質問に対して、「それはいい質問ですね、ちょっと戻って調べさせてもらいます」という答えも一法だ。数学の補集合のようなものをしっかり考えておく。その方法を私自身メソッドとして作り上げて、今に至っている。