「リンガー」「ハチバン」統合交渉決裂の真相 ちゃんぽんとラーメン、どこで溝が生じたか

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一方、リンガーは中期的な経営目標として、①経常利益率10%以上(2016年2月期会社予想6.3%)、②リンガーハット800店(2016年2月末時点600店)、③2020年に売上高の半分を海外で稼ぐ(同、海外11店のみ)の3つを掲げていた。この中で最大の難関は、国内に比べて脆弱な、海外展開のテコ入れだ。それには買収など経営統合が最速の選択となる。

その点、海外に118店舗(2015年12月末、うちタイに111店舗)をFC展開するハチバンは、大きな魅力だった。ハチバン以外にも、同業で海外に店舗網を持つ企業はワイエスフード(上場)や味千ラーメン(非上場)などがある。もっとも両社は本拠地が同じ九州にあるため、国内での店舗競合を考えると、統合先としてはふさわしくない。

統合「再交渉」も選択肢?

リンガーとハチバンの統合再交渉はあるうるのか(写真はハチバンの主力メニューの野菜ラーメン。同社のHPより)

リンガーとしてはあらゆる可能性を捨てずに、今後の成長戦略を構築していくことになる。選択肢の中には意外かもしれないが、ハチバンとの「統合再交渉」も考えられそうだ。なぜなら、今回は提携交渉期間の終了であって、決定的な破談には至っていないためだ。今後も協力関係や情報交換は続く模様で、再交渉の可能性についても両社幹部は白紙として、否定はしていない。

では、統合再交渉が進むとなると、どのように推移するのか。
現在、リンガーはハチバン株式の9.5%を保有する筆頭株主。提携解消後の保有株の取り扱いについてリンガーは、「資産の有効活用の観点から売却していく」(幹部)としている。提携を解消したわけだから当然の流れだが、勝手には売却できない。筆頭株主としての責務があり、市場の混乱を招かないように売却の手段や時期をハチバンと協議する必要が出てくる。

その際、「協議の場」は両社にとって「統合再交渉の舞台」に替わる可能性がある。リンガーは筆頭株主の地位を利用しながら優位な立場で交渉できる。ハチバンもリンガー株を2.3%保有する第7位の株主のため、一方的な交渉とはならないが、売却のマグニチュードはハチバンの方が大きい。そんな両社の関係にとって、勝ち残りの道を模索する絶好の機会に、協議の場がなってもおかしくはない。

ただ、そこで問題となるのが、フランチャイズ経営の壁だ。この2年間、リンガーとして追い続けた海外展開拡充策では、ハチバン側のノウハウをほとんど活用できなかった。これは、現地のフランチャイジーとハチバン創業家との20年に及ぶ強固な信頼関係に、リンガーが入り込めなかったからだ。その壁を突破するには、リンガーが独自に海外FCを研究しながらハチバン側の気持ちに寄り添った交渉ができるかが焦点となろう。両社の信頼感を創業家同士だけではなく、役員や社員にも広げられるかだ。

国内のラーメン業界はインバウンド需要の増加が期待できるものの、人口減少や外食の競合激化、人件費高騰などを踏まえると、国内だけでの事業成長には限界が見える。説得力ある成長ストーリーを描くには、海外展開は不可欠な要素といえそうだ。リンガーとハチバン、両社の運命の糸が今回完全に途切れたと決め付けるのは、早計かもしれない。 

鈴木 雅幸 東洋経済 記者

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すずき まさゆき / Masayuki Suzuki
2001年東洋経済新報社入社。2005年『週刊東洋経済』副編集長を経て、2008年7月~2010年9月、2012年4月~9月に同誌編集長を務めた。2012年10月証券部長、2013年10月メディア編集部長、2014年10月会社四季報編集部長。2015年10月デジタルメディア局東洋経済オンライン編集部長(編集局次長兼務)。2016年10月編集局長。2019年1月会社四季報センター長、2020年10月から報道センター長。
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