興味深いのは、荒馬をめぐるネットワークが、地域の人々と学生たちの交流から自然に広がっていった経緯だ。自治体や経済・観光団体が関わらないところで種が蒔かれ、つながりが芽吹いた。もちろん、今は地元が総力を挙げて交流を支え、北海道新幹線の開業準備の核に位置付けている。
しかし、原点はあくまでも、町民と学生たちの出会い、そして共鳴だった。「観光振興」「経済効果」といった視点にとらわれて若者や新幹線開業に向き合っていたら、このようなネットワークが育ったかどうか。観光パンフレットや一過性の開業キャンペーンでは得られなかった財産を、今別町は手にしているように見える。
とはいえ、対岸の木古内町と同様、今別町の現状は決して楽観を許さない。新幹線開業をどう地域の存続に結びつけるか。
町は若者の流出を少しでも食い止めようと、2016年度から、青森市内の高校に進学した高校生を対象に、通学定期代の3分の1を補助することにした。新青森-奥津軽いまべつ間は新幹線で15~16分。「現在は下宿を余儀なくされている高校生も、通学の選択肢が生まれてくる」と小野成治・今別町新幹線対策室長は期待を込める。
さらに、今年2月には、奥津軽観光の拠点の一つ・津軽鉄道の津軽中里駅(中泊町)と奥津軽いまべつ駅の間に、路線バスが1日4往復、運行することも決まった。ただ、想定では1便当たりの乗客は平均4人、年間2千万円近くの赤字を見込み、県が2分の1、沿線3市町が6分の1ずつを補填する仕組みという。支出に見合った効果や利用が得られるか、行方が注目される。
全国の若者の「ふるさと」に
青森県にとって、奥津軽いまべつ駅は北海道新幹線で唯一の駅だ。県は北海道新幹線の建設費5800億円弱のうち、約800億円を負担しており、同駅を拠点に相応の経済効果を獲得するべく、各種施策を展開してきた。とはいえ、地元の人口規模や産業基盤の薄さを考えれば、奥津軽いまべつ駅の利用者や地元自治体を受け皿にした経済活動には限界がある。
他方、荒馬が生んだ交流のような、新たな人的ネットワークは、お金や数字に換算しづらい価値を持つ。このようなネットワークを、いかに高齢・人口減少社会の再デザインにつなげるか。少子時代に若者を奪い合うのではなく、各地の若者が国内を往来しやすい環境を整えて、いろいろな若者がさまざまな地域で活動し、地元の人々と交わる「居場所」「第二・第三の古里」をつくっていけないか。
筆者は残念ながら、まだ、今別町を自らの古里に変えた若者たちに会えずにいる。この夏はぜひ、彼らに会い、「あなた方はなぜ、どこに惹かれて、この町に通い続けているのですか?」と尋ねてみたい。
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