「悲観論後退」でも日本株の戻りが鈍い理由 なかなか定まらないドル円の方向とその水準

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ところで、米国株や原油価格などリスク資産の価格が年初水準に戻る中で、相対的に日経平均株価の戻りは鈍い。為替市場で、ドル円が依然110円台前半と、年初から円高水準に振れたままであることが影響している。市場のリスク回避姿勢が根強く、「安全資産」とされる通貨円が買われているとされる(なお筆者はこの見方には懐疑的で、デフレリスクが高い日本の通貨円が、株安などで景気減速リスクが高まると、デフレ期待の強まりとともに通貨高が起きると理解している)。

為替市場では、資源価格上昇とともに新興国通貨が対ドルでは2015年12月初旬の水準まで上昇している。WTIなどよりも急ピッチに、ファンダメンタルズが弱いままの新興国通貨が買われていることは、為替市場でもリスク回避姿勢が和らいでいることを示している。それでも、ドル円が円高方向で推移しているのは、FRBによる利上げ再開が依然遠いとの見方が根強く、さらに日本銀行のマイナス金利政策に対する市場の評価が定まらず、ドル円の方向感と水準感が読みにくいことが一因とみられる。

消費増税先送りは好感される可能性高い

日本銀行によるマイナス金利導入への評価が依然高くないのは、導入時の市場への伝え方が円滑でなかったことが影響している可能性があり、副作用が誇張され、金融緩和政策の限界などとの曖昧な批判論がメディアで盛り上がっていることも影響している。過去2回のコラム『マイナス金利が金融緩和効果を発揮する日』『マイナス金利に対する「過剰反応」の正体』で述べたように、マイナス金利導入で実質金利は低下しているし、景気刺激的にいずれ作用する経路は存在するので、マイナス金利導入は量的金融を補完するツールの一つと筆者は考えている。

また先に述べたように、2月までの原油市場の値動きに支配された市場の極度な悲観心理が、日本銀行のマイナス金利導入に対する懐疑的な見方を助長した可能性もある。3月10日にECBが社債購入を含めた金融緩和強化に踏み出したのに、ドラギ総裁の発言がネガティブにとらえられたように、市場では金融緩和に対する懐疑的な見方は根強い。「マイナス金利などの劇薬が必要なほど日本や欧州の経済は低調なのか」という疑念は、2015年夏場からの「中国による人民元切り下げが必要なほど状況は深刻なのか」という疑念と似ているのかもしれない。

今後、FRBの利上げ再開が織り込まれるなど市場心理が落ち着けば、日本のマイナス金利政策のプラスの側面も評価されると見込む。FRBの利上げ再開と、日本銀行による追加金融緩和の強化で、市場で根強い円高観測はいずれ薄れるのではないか。

ここへきて、2017年4月の消費増税の判断を慎重に見定める姿勢を安倍政権は見せている。景気動向次第だが、最近の動きをみると、2014年半ばの消費増税先送りの経緯といくつか共通点がある。仮に消費増税先送りとなれば、多くの投資家は安倍政権による経済正常化と脱デフレを重視する政策が継続していると判断し、前回同様、好感する可能性が高い。経済回復重視を象徴するアベノミクスの再強化となるだろう。

村上 尚己 エコノミスト

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むらかみ なおき / Naoki Murakami

アセットマネジメントOne株式会社 シニアエコノミスト。東京大学経済学部卒業。シンクタンク、外資証券、資産運用会社で国内外の経済・金融市場の分析に従事。2003年からゴールドマン・サックス証券でエコノミストとして日本経済の予測全般を担当、2008年マネックス証券 チーフエコノミスト、2014年アライアンスバーンスタン マーケットストラテジスト。2019年4月から現職。

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