ただこれを奇貨として、最新式の工場を建設し、今までは古い設備のため見送らざるを得なかった新商品を開発することが可能になりました。新工場は「ソース夢工房」と名付けられ、フランス料理をあっさりいただく「やわらかだしソース 和」、震災被害の大きかった長田区にちなんだ「長田ソース」などオンリーワンの商品が次々と生み出されています。その数、新旧合わせて約300種類と言います。
また、震災も悪いことばかりではありませんでした。
熟成シリーズが大ヒット
震災から8年経ったある日、道満社長は、焼け残ったタンクにソースが残っているのを見つけます。従来、ソースは寝かせても1年です。8年経ったソースはどんな味やろ、と恐る恐る口にしてみました。道満社長は、衝撃を受けます。酢や香辛料の刺激が弱まり、今まで味わったことのないまろやかな味になっていました。ソースのヴィンテージものです。それから2年後、震災から10年の節目に原液を加熱処理して「オリバークライマックス10年仕込み」として売り出しました。えらい人気で、2週間で4000本が完売です。売り上げは、全額、被災者に寄付しました。
その後も、焼け残ったタンクにあったソースを「15年仕込み」、「20年仕込み」のクライマックスソースとして発売しました。この「20年仕込み」は昨年1月の限定発売ですが、震災から20年経ったということになります。残った最後の熟成ソースでした。取りあえず打ち止めです。
ただ会社としてはこの経験を活かし、「長期熟成」という新たな観点からソースの長期仕込みを始めました。プレミアムソースと銘打ち、「オリバークライマックス3年仕込み」として販売。ちょっと見ると、高級ワインのようです。一躍、ヒット商品になりました。仕込み時期は、毎年1月17日。震災の記憶を風化させないように、との思いからです。さまざまな努力の甲斐あって、売り上げも震災前の水準を超える勢いです。
「苦しいこと、悲しいこと、たくさん起こります。でも、ちょっと面白くやろう、楽しくやろうや、と考えています。明るさが大事なんです」(道満社長)
震災を乗り越えるんだ、という強い決意と、吉本的に面白くやろう、の精神が相まって、逆境に負けない元気な経営を続けています。
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