東芝が手放す「虎の子」が高騰、その真の実力 海外勢は東芝メディカルをどう見るのか

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キヤノンは買収によって、長年の目標だった医療機器事業に本格参入する。医療分野は参入障壁が高く、なかなか買収案件が出てこない。2015年2月の東洋経済の取材で、東芝ヘルスケア社の綱川智社長(当時)は「2000年頃は医療機器に大きな動きがあったが、今はそんなに大きな案件はない」と明かしていた。キヤノンにとってはまさに狙い目だった。

一方で、ある海外電機大手の幹部は売却発表前から「国内では東芝をライバルと見ているが、海外では販売網がなく弱い」と一蹴していた。東芝は「国内の機器売りがメインで、海外での競争力はない」という印象のようだ。

たとえば、独総合電機世界大手のシーメンスは2015年5月、医療分野の意思決定を早めるため、ヘルスケア事業を独立させた。単なる医療診断装置の機器売りからの脱却を目指し、病院のコンサルティングやITを活用したサービス事業を軸に置いている。

その点、東芝メディカルは、グループの中で着実に利益を生みだしている優良事業とはいえ、シーメンスのようなサービスやIT活用はまだ不十分で、機器売りがメインだ。

海外市場をどう攻略するのか

シーメンスヘルスケアの森秀顕社長(日本法人)が「絶滅戦争」と表現するように、日本国内の病院数は減少傾向にあり、機器の納入先も必然的に減ってくる。需要が増える海外で拡大を目指すが、新興国では価格競争が激化している状況だ。

CTは世界でトップ3のシェアを誇る。キヤノンは医療機器事業をどう育てていくのか

東芝もCT(コンピューター断層撮影)は世界でトップ3に入る。だが、今後新興国で拡大が期待されているMRI(磁気共鳴画像)については「機器の主要部品であるマグネットが外部調達なので、競争力が厳しい」と綱川社長(2015年2月当時)も認めていた。

森社長は、東芝メディカルの売却について「関心があるかと言えばある。研究開発に投下できる費用が増え、イノベーション(新技術)を生み出し、それが評価されるようになれば、われわれも喜ばしい」と話す。東芝の厳しい財務状況の中で資金が投下できない状況よりも、外部資本を入れた成長に期待が集まる。

巨額費用を投じて東芝メディカルを買収するキヤノンにとって、単なる機器売りから脱却できるかが課題になりそうだ。基礎技術があるからこそ、今後の成長戦略をどう描くかが問われることになる。

富田 頌子 東洋経済 記者

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とみた しょうこ / Shoko Tomita

銀行を経て2014年東洋経済新報社入社。電機・家電量販店業界の担当記者や『週刊東洋経済』編集部を経験した後、「東洋経済オンライン」編集部へ。

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