何もかも手にしたはずの美人妻が不幸な理由 東京の「婚活事情」最前線<9>

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こんなにおっとりとした優しそうな女が発狂する様は想像ができないが、実際夫に八つ当たりし食器を破壊したことが何度かあるそうだ。交際期間が短かった夫は良い人であるのには間違いないが絆が薄く、また商社マンらしい亭主関白な面もあるようで、ミーハーで夢見がちな亜美とは性格もあまり合わないという。

もし仕事に戻れなくて専業主婦になんてなったら...

「私は早く社会復帰したいのに、『もう仕事には戻らないで家にいたら?』っていつもプレッシャーかけてくるの。十分な生活費をもらえるならまだ分かるけど、節約生活なんてするくらいなら私働いてお買い物や美容代は自由に使いたいし、専業主婦なんて外に出る口実もなくなっちゃう」

婚活時代と同じ、あの切実な口調と感じの良い笑顔は全く変わっていない。当時と同様、ただ素直に、彼女が今欲しいものは「自由で華やかな生活」にシフトしたようだ。確かに物価の高い東京で世帯年収1000万くらいでは、優雅な専業主婦生活が送れるわけではない。

「主婦といったら、眼科開業医を仕留めた、有加子は理想的な生活だよね。年上の旦那さまだから心も広くて、今はあの豪邸でお料理教室を開いてるんだって。裕福な上、自由に自分で仕事までできるなんて、羨ましい。私は中途半端な結婚して、何の取柄もないのに...」

亜美は相変わらず受験に失敗した学生のように、商社マンの夫と結婚したことを悔いている。とびきり年収の高い男と結婚して、優雅な暮らしをすることをあんなに夢見ていたのに。誤算で中途半端な結婚をしてしまった。

「あんなに結婚のことばかり考えてたのに失敗するなら、もっと自分のキャリアを真剣に考えておけば良かった。もし仕事に戻れなくて専業主婦になんてなったら、私の人生ってどうなるんだろう...」

彼女は可愛い顔をした小さな赤ん坊を抱えながら、同時にまだ不安を抱えている。言うまでもないが、商社マンの夫に可愛い子どもを手に入れた彼女の心配事や不満は贅沢病というものだろう。上を見ればキリがないが、亜美の下だっていくらでもいる。結婚できない女に、子供を授からない女、仕事を続けられない女。専業主婦になれない女。亜美はほとんどすべてを手に入れながら、幸せを感じることができない。

数か月後に会った亜美は、春を先取りしたようなサーモンピンクのワンピースを可愛らしく着こなし生き生きとした表情をしていた。メイクも春らしい明るいもので、美しさに磨きがかかっている。

「仕事に戻れて本当に良かった。ランチだって自由にとれるし、仕事中の方が休憩時間みたい。育休中の方が休みナシで大変だったよ」

仕事をすることが休憩になるとは、母とは想像以上に大変なものなのだろう。亜美だけでなく、子どもを持つ働く女は皆同じようなことを言う。それにしても、彼女の笑顔は心底明るい。

「あとね、私実はね...彼氏ができたの」

彼女の明らかに変わった表情を見た瞬間想定はしていたが、「彼氏」と堂々と宣言するとは驚いた。仕事に復帰した直後、社内の年下の独身の男と恋に落ちたらしい。

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