どっこい生きてる地方中小私鉄、知恵と工夫で支える地域の足《鉄道進化論》
【関東鉄道&つくばEX】常総線の乗客減に直面 客が流れたTXは黒字化
とにかく速い。東京・秋葉原と茨城・つくば間58キロメートル強を最速45分で結ぶつくばエクスプレス(TX)。あっという間に東京を離れ、車窓には関東平野の緑。このスピードがもたらす時間短縮効果は絶大だ。
05年8月の開業からわずか3年半。TXを運行する第三セクター、首都圏新都市鉄道は09年3月期決算で初の営業黒字を達成した。
千葉県柏市や流山市、茨城県守谷市などの、既存の鉄道を利用していた通勤客の流入に加え、沿線の人口増加で新規客も増えているためだ。
このTXと接続する鉄道会社4社(都営地下鉄は除く)のうち、唯一首都圏新都市鉄道に出資しているのが、茨城県地盤の関東鉄道である。
関鉄は、かつては支線を含め五つの鉄道路線を運行していたが、現在は常総線(JR常磐線・取手駅と同水戸線・下館駅を結ぶ51・1キロメートル)と竜ヶ崎線(常磐線・佐貫駅と竜ヶ崎駅を結ぶ4・5キロメートル)の2路線のみ。1~2両編成のディーゼルカーが筑波山を遠くに望む田園地帯をのんびり走る関東のローカル私鉄だ。
関鉄の鉄道収入の大半を占める常総線のうち、取手-水海道の複線区間では、開発が進み東京への通勤客が増加、乗客数は漸増傾向が続いていた。ところが、TX開業がこの“ドル箱区間”を直撃。06年度の関鉄の鉄道収入は23億円強と、04年度と比べ2割近くも減ってしまった。
時間短縮効果を考えると、TXに客が流れるのは至極当然。TXと接続する守谷駅から東京に出る場合、TX開業前は取手まで20分弱、常総線を利用。取手でJR常磐線に乗り換えて上野までさらに約40分かかっていた。一方、守谷駅からTXの快速に乗れば、秋葉原まで30分強で行けるのだ。運賃もTX利用のほうが安いから、勝負にならない。
そこで関鉄としては、TXに乗るまでの足として、常総線を利用してもらおうと発想を転換した。
水海道以北、終点の下館までの単線区間は、高校生の通学客が中心。乗客数は長期低落傾向にあった。この“ローカル線区間”の乗客を増やすため、「パーク&ライド」と称し、各駅に合計200台近い無料駐車場を設置。加えて、この区間の運行本数を増やすと同時に、快速も導入した。この結果、TX開業後、ローカル線区間の乗客数は増加に転じた。上京する場合、JR水戸線から小山駅を経由し、JR宇都宮線を利用していた常総線北部や水戸線の沿線住民が、TXの速さに着目して守谷まで常総線を利用し始めたのだ。
とはいえ、「マイナスの影響はカバーできていない」(総務部)。関鉄の場合、バス事業や不動産事業も営み、経常利益は黒字を維持。大都市圏から遠く離れた地方鉄道ほどの悲壮感はない。ただ、ドル箱区間を襲った嵐への対応は今後も続く。
[写真]守谷駅付近を走る関東鉄道常総線のディーゼルカー。TXと接続し、都心までの移動時間は大幅短縮された