どっこい生きてる地方中小私鉄、知恵と工夫で支える地域の足《鉄道進化論》
【和歌山電鐵】明確な支援スキームと独創的アイデアで存続に成功
JR和歌山駅からほぼ真東に向かう和歌山電鐵貴志川線。沿線には、静かな住宅地や農地が広がる。和歌山市のベッドタウンとして、沿線人口はジリジリ増加しつつある。
貴志川線は06年3月まで南海電鉄が運行していたが、利用者が毎年5%ずつ減少するという状況で南海は廃止を決定していた。
沿線人口が減っていないのに利用者が減少する矛盾。原因はモータリゼーションだ。しかし、そもそも鉄道の利用者は、車を運転できない交通弱者が多い。沿線住民にとって、通勤、通学、通院などの足として貴志川線は不可欠の存在だった。住民が立ち上がり、存続を要請する組織がいくつも生まれた。和歌山県、和歌山市、貴志川町も支援を決めた。
しかし、存続支援といっても財政状態が厳しいため、第三セクター方式は最初から見送られ、運営主体は公募で決めることになった。
05年4月、岡山市内で路面電車やバスを運行する岡山電気軌道が選ばれた。同社は名鉄岐阜市内線や北海道ちほく高原鉄道などの存続支援に手を上げた会社だ(いずれも地元自治体と条件が合わず断念)。貴志川線では、支援のスキームがしっかりしていたことで存続に成功した。
猫のたま駅長やおもちゃ電車などの企画が全国的な話題となったこともあり、乗客数は南海時代最後の05年192万人から08年度219・5万人へと増加、新生・貴志川線はまずまず順調な滑り出しを見せている。
[写真]たま電車、いちご電車、おもちゃ電車など固定観念を破る楽しい車両が走る