働く人をとりまく法律入門 大内伸哉編著 ~俯瞰することができる労働関連ルールの相互関係
会社が倒産したら、ボーナスはどうなるのか。会社で発明した権利は自分のものになるのか。会社の株式が買収されて経営陣が交代したら、待遇は悪化するのか。どれも、普段働いていて起こる事柄であるが、労働法の枠内に必ずしも収まらない。
本書はそれぞれの分野からこうした働く人の問題に焦点をあてつつ、各法律の概観を説明するという難しい作業に成功している。働く人の問題に関心のある人がガイドブックとして読むのによい。あるルールが存在する理由と、他のルールとの相互関係を明らかにしようとする努力が随所にみられる。
憲法、労働法は当然ながら、民法、会社法から租税法、知的財産法、倒産法まで、ありとあらゆる法律によって、さまざまな権利が構成されている。働く人のさまざまなルールが絡み合って、働く人の権利が構成されているので、一つ一つのルールだけを取り出して論じると、全体のバランスを崩してしまうことにもなりかねない。
労働者の安全管理を一例に挙げると、偽装請負の問題で顕在化したように、労働災害の補償を求めようとするとすぐにクビにされるようでは、安全管理に関するルールは実行性をもちえない。あるルールが機能するためには、他のルールが必要であったり、一つのルールが機能すれば、他のルールは不要であったり、ということになる。
望ましい制度の全体像を構築するのは困難な課題だが、本書を通してさまざまなルールの相互関係を俯瞰することができるだろう。実際、本書を眺めると、実に多くの法律が働く人に関わってくることがわかる。
労働の問題に詳しくなくても、少なくとも興味を抱く章をいくつか見つけることができるだろう。
おおうち・しんや
神戸大学大学院法学研究科教授。労働法専攻。1963年神戸市生まれ。東京大学法学部卒業、東京大学大学院法学政治学研究科修士課程修了、同博士課程修了(法学博士)。神戸大学法学部助教授を経る。
ミネルヴァ書房 2940円 310ページ
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