欧米型・カジノ資本主義の限界が見えてきた みんなを幸せにする「公益資本主義」のすすめ
原:ちなみに株主還元率で言うと、2004年から2013年の期間のデータですが、タイム・ワーナーは280%と逸脱している。他にも、ファイザーが137%、ディズニーが100%、IBMが113%、プロクター&ギャンブルが118%という具合です。会社は株主のものなので株主に貢献することが会社の使命であるという考えが、このような事例を生むのです。
大久保:内部留保はまったくいらないという考え方なのですか。内部留保がないと、企業の安定性が欠けると思いますが。
原:内部留保があるから研究開発をじっくりできるという発想は彼らにはありません。株主還元を増やせば株価は上がる。それをテコにしてM&Aを仕掛ける。欲しい技術があったらM&Aで買ってくるのです。時間をかけて技術開発を行うと、時価会計上では減損が生じてしまうからです。
キャピタルゲインの税率も問題
原:また、キャピタルゲインの税率が所得税率よりも低いので、多くの人が短期的な利益追求を目的にした株式投資に走りやすい。会計基準、税法、会社法すべてにおいて、短期的な資金をマネーゲームのように投機する投機家を育むエコシステムが成り立っているのです。日本でも最近マイナス金利政策が取られましたが、日本では株式資産保有率は11%、投資用不動産資産の保有率はもっと低く、この政策で恩恵を受けるのはほんのわずかな層に限られます。このままではマネーゲームも格差も広がるばかりでしょう。
大久保:米国の例をみていると、今後誰も長期投資をしなくなり、産業は衰退する一方です。企業にとって本当に必要な投資は誰が行えば良いのでしょうか。
原:これは日本の企業がやるしかないでしょうね。以前、米デュポンのCEOと話をした時、「東レがうらやましい」と言っていました。東レは炭素繊維の研究に40年を費やしたのですが、その間ずっと利益は生まず、金食い虫だったのです。これが米国の大手上場会社だったら、3年も研究して結果が出なければ、その時点で研究開発を終了させられてしまうというのです。
米国の企業は、長い目でゼロから有を創り出すことが、もはや不可能になっているのです。だからM&Aに走るわけですよ。デュポンがダウ・ケミカルと合併したのもその帰結と言えるでしょう。M&Aばかりでは経済のパイが増えません。このままでは世界の実体経済の成長も止まってしまいます。実体経済を創り出すためにも、私たちは公益資本主義の理念を日本から海外の企業に広めていく責務があります。
大久保:新興国にも、公益資本主義の考えを広めていく必要があるのではないかと思います。公益資本主義によって中産階級層を増やすことで、新興国の今後の持続的な成長の基礎ができるのではないかと思います。しかし、欧米諸国は株主資本主義を、新興国にも広めていこうとしています。その動きが勢いづいたら、環境問題や食糧問題がさらに深刻化する恐れがあります。
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