欧米型・カジノ資本主義の限界が見えてきた みんなを幸せにする「公益資本主義」のすすめ

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:かくなる上は、社外取締役を逆に利用するしかないでしょうね。第一番目の役割として、社外取締役は、経営陣に対して企業家精神を刺激し、新規事業の立ち上げや新しいアイデアがある時には経営陣の背中を押す。第二番目には、ヘッジファンドやアクティビストといった投機家がそのチャレンジを阻み、株主への還元を優先するように要請してきた時には、経営陣を代表して論駁するような役目を担ってほしいのです。

第三番目は、短期・中期・長期と経営資源が平等に分配されているかどうかをきちんと見極める。こういうことが社外取締役本来の使命だと考えています。私は、こうした公益資本主義のエッセンスを経営に反映させるための役割を社外取締役に持たせる必要があると提言してきましたが、今回制定されたコーポレートガバナンス・コード、スチュワードシップ・コードには、理想と現実の乖離といった問題が内包されていると危惧しています。

四半期決算は廃止すべき

大久保:なるほど。原さんが言うような社外取締役であれば、企業としては歓迎しますよね。しかし、2つのコードを見ていると、「中長期的視点にたって」とありながら、実際は異なっています。四半期決算の開示も短期的な成果を求める要因となっていて、経営にとって決して望ましいものではないと考えています。

:これは明らかに廃止するべきですね。どの事業も季節性がありますから、四半期で常時、右肩上がりで業績が良くなるなんてことはありません。無意味なものは廃止するべきです。そのほうが経営者も投資家も、長期的な視点で経営を見られるようになります。さらに四半期決算の開示にかかる費用を削減し、社中に分配すればよいのです。

大久保:でも、なぜ日本政府は、原さんが政府でしっかりと中長期的経営の重要性を説き、閣議決定をしながらも、実際には米国の二番煎じのようなことばかりしているのでしょうか。どうすれば歯止めをかけられるのでしょうか。

:米国が言うところの「グローバリゼーション」に毒されているとしか言いようがありません。米国は盛んにグローバリゼーションを喧伝しますが、それは世界の多様な価値観を認め合うものでは決してなく、単に米国化を推し進めたいだけのことなのです。

日本のメディアも、あるいは学者の人たちも、それを無批判に受け入れ過ぎだと思います。会社法にしても契約書の書き方にしても、すべてを米国様式にしてしまえば、米国企業が海外展開していくのに便利です。それを米国は、米国化と言わずグローバリゼーションの名の下に行い、従わないものは非合理と判断し排除する。日本にもその流れを押し付けているのです。恐らく、ウォールストリートの連中が今狙っているのは、国境を越えた資本移動を邪魔している見えないバリアを撤廃することです。

大久保:このままだと、日本自体も欧米型の資本主義に呑みこまれてしまう恐れがあることが、よく理解できます。私は、その弊害に気づかせてもらったからこそ、ひとりでも多くの人に公益資本主義の理念を理解していただき、多くの人たちのためになる新しい資本主義を確立し、発信するきっかけを作りたいと思い筆を執り、今回の出版に至りました。

:経済財政諮問会議での機関決定や閣議決定、コーポレートガバナンス・コード、スチュワードシップ・コードに記載された中長期という言葉から、まだまだ改善点はあるものの、中長期的な経営や社中分配の公平性に対して、政府レベルでも強力な推進者がいます。

これからは、議論からアクションへ、改良改善を実行し、公益資本主義の実践に向けた行動に移す時期が来ていると思っています。

大久保 秀夫 フォーバル会長

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おおくぼ ひでお / Hideo Okubo

フォーバル株式会社代表取締役会長。1954年東京都生まれ。国内、外資のふたつの会社を経て、25歳で新日本工販株式会社(現・株式会社フォーバル/東証一部上場)を設立。1988年、当時、日本最短記録で現・ジャスダックに株式を公開。同年、社団法人ニュービジネス協議会「第1回アントレプレナー大賞」を受賞。東京商工会議所特別顧問、公益財団法人CIESF(シーセフ)理事長、一般社団法人公益資本主義推進協議会(PICC)代表理事。「『社長力』を高める8つの法則」(実業之日本社)など著書多数。

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